中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

衰退する日本の家電産業に学べ

日本の家電産業は右肩下がりとなり、多くの事業が中国企業などに売却をされている。一方で、中国の家電産業は急成長を遂げている。しかし、中国の家電産業もいずれ日本と同じ道を辿るのだから、今から日本の家電産業の動向をよく研究しておく必要があるとIT時代網が報じた。

 

躍進する中国家電企業も、いずれ日本と同じ道を辿ることになる

この記事の原題を直訳すると「日本と韓国の家電は衰退。中国の家電業界はどのような危機に直面しているか」というもの。「日本、韓国の家電業界が衰退した」という刺激的な見出しに異論を唱える方も多いかと思う。その是非はともかく、現代の中国人がアジアの家電市場をどのように見ているかということをよく表している記事になっている。内容の是非はともかく、「中国人の見方はこうである」ということを知るために読む価値がある記事になっている。

筆者の猛亮氏は、日本の家電企業は衰退をする一方に見えるが、それは浅い見方に過ぎないと主張する。日本の家電産業が衰退しているのは確かだが、家電企業は業態転換に挑戦をしている。中国の家電市場もいずれレッドオーシャンとなり、日本の家電企業と同じように業態転換をせざるを得ない局面が訪れる。その時のために、現在の日本の家電企業の転換戦略をよく研究しておく必要があると主張をしている。

 

日本家電企業が衰退した原因は利幅の縮小

全盛期の80年代、90年代、日本の家電業界は世界を席巻した。日本経済を牽引し、日本製品が海外で認知される尖兵となっていた。当時、世界500トップ企業ランキングには149社もの日本企業がランキングされ、日立が13位、松下電器が17位、東芝が36位、ソニーが43位、NECが48位と50位以内にランキングされた家電企業も多かった。

しかし、日本経済のバブル崩壊とともに日本の家電業界の衰退が始まった。2011年には、ついに3強のソニーパナソニック、シャープが巨額損失を計上し、家電の巨人は大リストラを断行したが、それでも経営数字は悪化する一方だった。

巨額損失を食い止めるため、家電業界は市場からの撤退を始めた。東芝は2015年末にインドネシアのパネル工場と洗濯機生産基地を中国スカイワースに売却した。2016年には、洗濯機、冷蔵庫などの白物家電事業を中国ミデアに売却、医療部門はキヤノンに売却。2017年には、半導体部門を米ベインキャピタルが主導する日米連合体に売却、テレビ事業の95%の株を129億円で中国ハイセンスに譲渡。現在、東芝は会社の再建を行っている。

シャープも巨額債務に耐えきれず、3890億円で台湾ホンハイグループに66%の株を譲渡。また、パナソニックもさまざまな製品で、中国家電市場から撤退した。

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▲ハイセンスの4Kテレビは、すでに日本でも購入している人が増えてきている。画質という点では、確かに日本メーカーに及ばないところはあるが、それは両者を並べて比べてみて初めてわかるレベル。ハイセンスの製品だけを見たら、画質に不満を持つことはないと思う。

 

IBMは見事にハードからソフトに業態転換した

日本の家電産業が衰退した原因はさまざまあるが、その中でも大きいのが、中国や韓国の家電産業が成長し、日本の家電の利幅が以前ほど取れなくなったことだ。

2004年、IBMは斜陽産業になっていたPC事業を中国レノボに売却した。当時、中国では、「蛇が象を飲み込んだ」「中国レノボは、あのIBMに勝った」と言われたが、実はIBMは経営戦略をハードウェアからソフトウェアに転換をしただけで、その後、IBMは2011年にはソフトウェアが売り上げの23%を占めるようになり、2015年にはソフトウェアが売り上げの半分を超えた。

IBMは中国に負けたわけでもなんでもない。転換戦略を進めるために、PC事業が不要になり、レノボに売却をした。IBMにもレノボにも双方にメリットのある取引だっただけだ。

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▲ミデアの電子オーブン。デザインも悪くないと思うし、ダイアルつまみを採用しているところが優れている。調理中は、矢印ボタンで時間などを設定するより、大きめのダイアルつまみを回す方がはるかに使いやすいのだ。

 

日本の家電企業は、現在、業態転換に挑戦中

日本の家電企業も同じ道を辿っている。ソニーは、2010年に米国のiCyt Missionを買収し、ソニーバイオテクノロジーと社名変更をして、バイオテクノロジー事業を始め、自社の音響技術、映像技術を医学生物領域に応用することを狙っている。また、日立は2012年に56年の歴史があるテレビ事業、液晶パネル事業などを断念し、健康分野や物流分野に転換。活力を取り戻している。

つまり、日本の家電産業が衰退をしたことは間違いないが、家電企業は衰退していない。家電から他の分野への転換を行っているのだ。街中で家電ブランドを見かける機会が少なくなったので、企業まで衰退をしたかのように見えてしまうかもしれないが、それは正しい見方と言えない。

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▲ハイアールの冷蔵庫。液晶パネルはもちろんネット接続可能。現在は、ただスマホをはめ込んだだけのようなことになっているが、人工知能を効果的に活用できるようになれば、調理家電の世界を大きく変える可能性がある。

 

中国家電企業もいずれ日本と同じ道を辿る

現在、中国では、ハイセンス、ハイアール、ミデア、スカイワースなどの家電企業の元気がよく、急成長をして、国際的な企業になろうとしている。一方で、競争は熾烈になり、すでに家電市場はレッドオーシャン化をし、利幅は日々縮小している。中国企業は、遠くない将来、家電企業からの転換を迫られることになる。その時に、IBMの成功例や、現在日本の家電企業が挑戦をしている家電からの転換をよく研究し、今から転換を見据えた準備をしておくことが重要だ。

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▲携帯電話メーカー「シャオミー」も白物家電の販売を始めている。若者の間で人気となった炊飯器。液晶パネルを筐体内側に埋め込むなど、デザインも優れている。日本の無印良品のテイストを感じさせる。

 

この冷静な見方こそ、中国企業の強み

筆者の猛亮氏の主張は、極めて冷静で合理的だ。日本の家電企業の家電売上が縮小しているのは事実だが、そこだけを捉えて「日本に勝った」とはしゃぐのではなく、冷静に分析をして、中国企業の未来を予測し、今からその未来に備えておくべきだと主張する。この冷静さこそ、中国企業の強さなのだ。

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WeChatペイからアリペイ一強へ。変わる中国スマホ決済地図

中国のスマホ決済は、アリババのアリペイとテンセントのWeChatペイの2強の状態が続いている。しかし、2017年下半期からWeChatペイの利用率が下がり、アリペイを主に使う人が増えていると今日頭条が報じた。

 

現金を使うのは外国人と地方出身者ばかり

中国の都市部では、QRコードによるスマホ決済が主流の決済手段になっている。数年前の統計でも対面決済の40%から50%がスマホ決済になっていて、農村部ではスマホ決済がまだあまり普及をしていないことを考えると、都市部では対面決済の70%、80%がスマホ決済になっていると考えていいようだ。

それは、中国の都市を訪れてみればすぐに実感できる。現金というものをほとんど目にすることがないのだ。現金を使っているのは、外国人旅行者か地方からの旅行者ぐらい。朝のコンビニなどでは、ほぼ全員がスマホ決済で、現金を使おうものならレジ待ちの客に迷惑をかけてしまいそうな雰囲気だ。

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▲アリペイ(支付宝)とWeChatペイ(微信支付)が、現在の中国スマホ決済の2強。ほぼすべての店舗が、この2種類の決済手段に対応している。

 

アリペイに集約する傾向が強くなってきた

スマホ決済は何種類も存在しているが、有力なのはアリペイ(アリババ)とWeChatペイ(テンセント)だ。この2つであれば、どの店も対応しているので、多くの人はこのいずれからをメインの決済手段としている(両方使っている人も多い)。

統計では、アリペイ55%、WeChatペイ37%となっているが、2017年後半あたりから、アリペイを主要な決済手段にする人が増えているという。2017年の統計数字はまだ集計されていないものの、すでにアリペイ2、WeChatペイ1ぐらいの差がついているのではないかと見る人もいる。また、この差は広がる一方で、数年でアリペイ一強になる可能性が出てきた。

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アリペイがWeChatペイよりも優れている3つのポイント

アリペイが優勢になってきた理由を、記事は3つにまとめている。1つは金融機能の差。2つ目は安全性。3つは利用者特典の多さだ。

アリペイとWeChatペイは、同じQRコード決済だが、その由来は違っている。アリペイは、アリババが運営するECサイトタオバオ」内でお金をやり取りするためのサイト内通貨(ポイント)を実体店舗でも使えるようにしたもの。正統的な決済アプリだ。

一方で、WeChatペイは、メッセージアプリ「WeChat」の付属機能だ。決済というよりも、利用者間でお金をやり取りできるようにしたもの。最もよく利用されるのは、動画配信などをする人に対する「投げ銭」だ。また、レストランで割り勘をする時にも使われる。WeChat上で参加者のグループを作っておき食事を楽しむ。そして、幹事役がWeChatペイでまとめて支払いをする。すると、参加者一人あたりが支払うべき額が自動計算され、幹事に自動送金され、割り勘が自動的に行える。また、微商と呼ばれる個人間取引も盛んだ。個人が日本旅行のお土産などを友人に販売するというもので、決済はWeChatペイで行われる。知らない個人から商品を購入するのは不安に思えるが、WeChat上に友人関係がすでにできていて、そのネットワークを使って販売が行われるので、ECサイトで知らないお店で買うよりも安心感があると言う人もいる。

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アリペイは、連携する金融機能が充実

一方で、アリペイはそもそもが決済をするための仕組みなので、金融機能が充実をしている。その最たるものが余額宝という仕組みだ。これはアリペイ内で利用できる投資信託預金のようなものだ。当面使わない額を余額宝に預けておくと、アリババが運用をして、利息をつけてくれる。利息は事前に確定をしているわけではないが、現在の利回りは4.1%程度で、銀行の普通預金よりもはるかに高利回りだ。しかも、解約は即時、1元から可能で、一般の定期預金や投信信託のような面倒な手続きは不要で、チャージしてあるアリペイと同じ感覚で利用できる。この手軽さからアリペイ利用者が4.5億人のところ、2.5億人が余額宝を利用している。

お金に余裕のある人は、銀行預金をおろして、余額宝に入れてしまう人が多く、加熱人気となり、現在は当局から上限10万元に定める規制がかかっているほどだ。

さらに、消費者金融機能も充実している。アリペイの残高に不足があるときは、アプリの中から簡単に消費者金融を利用することができる。アリペイ独自の与信システム(利用履歴から個人の社会的信用度を算出する)芝麻信用スコアとも連動しており、必要なスコアを上回って入れば、審査などの手続きも不要で、即、アリペイにお金を振り込んでくれる。

また、ホテル、シェアカー、レストランなどの日用サービスもアリペイの中から利用できるようになっていて、これを利用すると、検索、予約、決済までがワンストップで行えることになる。

つまり、WeChatペイはどちらかというと消費者間決済に力を入れていて、アリペイは企業・消費者間決済に力を入れているという違いがある。

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▲余額宝の画面。オンライン投資信託だが、使い方は極めて簡単で、誰でもできる理財として人気が高い。銀行の普通口座よりも高い利回りで運用できる。

 

詐欺被害にあっても保障されるアリペイ

安全性は、技術面ではアリペイ、WeChatペイとも大きな違いはない。決済サーバーがハッキングされるといった事態は、現在のところ報告されていない。しかし、問題は利用者が詐欺にあって送金をしてしまうケースだ。このような事件が多い。

アリペイでは、利用者に大きな過失がない場合は、被害金額を補填することになっている。WeChatペイは、公式にはこのような仕組みを明言していない。

 

特典も多いアリペイ

さらに、アリペイは特典も多い。アリペイにもWeChatにも紅包という仕組みがある。これは、企業や個人などがお年玉を送金できる機能だ。10元から50元、総額2000元などと設定しておき、お年玉を送ると、設定した金額内のランダムな額を受け取ることができ、総額がなくなったところで終了する。くじ引き感覚があるために、家族に送ったり、企業の社長が社員に金一封を送ったりするときに利用される。また、企業はプロモーションとして、大型の紅包を配ることがあり、これを楽しみにアリペイを使っている人も多い。

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▲WeChatペイの操作方法。メッセージアプリWeChatのおまけ機能という位置付けなので、アカウントからウォレットを開いて、それから決済をするという1ステップ分面倒な操作方法になっている。

 

日常生活ポータルとなっているアリペイ、スマホ決済

アリペイは、単なる決済手段ではなく、そこに日用サービスの予約決済システムを組み合わせることで、日常生活サービスのポータルとなることを目指している。一般個人からは、決済手数料を取らず、このような連携サービスを利用することで利益をあげていこうというビジネスモデルだ。

スマホ決済は、次第にアリペイに集約されていく傾向が出てきたが、今のところ、利用者から独占による懸念の声は出ていないようだ。むしろ、買い物などの消費局面ではアリペイ、個人間でのやりとりではWeChatペイという使い分けがはっきりすると、歓迎している声が多い。

ここ1、2年で、スマホ決済の勢力地図は大きく変わっていくかもしれない。

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▲アリペイに連動して、個人の信用スコアが算出される芝麻信用。高得点になると、ビザ申請が簡略化されるなど、さまざまな特典が受けられる。

 

 

中国の富豪ランキング。多くがIT企業経営者に

毎年中国の富豪ランキングを発表している界面新聞が、2018年版の中国符号番付1000人を発表した。上位は、そのほとんどがIT企業、不動産開発企業の経営者で占められと投資銀行在線が報じた。

 

・異なるバブルの継投で成長する中国経済

日本では、この20年、毎年のように「今年こそ中国経済は崩壊する」と報じられているが、その不安をよそに、中国経済は着実な成長を続けている。確かに、中国の経済はバブル的だが、ひとつのバブルが弾ける頃になると、別の分野でのバブルが始まる。バブルが連続することで沸騰状態を維持しているというのが中国経済だ。

改革開放以後、飲料、食品、家電、自動車とバブルが連続し、近年では不動産、住宅開発が中国経済を牽引した。その不動産バブルが弾ける頃に、アリババ、テンセントなどのIT企業が急成長をする。

2018年の富豪ランキングは、まさにその中国経済の歴史を物語るものとなっている。

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▲界面が発表した中国富豪ランキング。1000位までが掲載されている。これを見ると、中国経済の構造がよく見えてくる。

 

トップは不動のテンセント、ポニー・マー

このランキングは1000人分あるが、その上位20位までを見ると、IT企業か不動産開発企業の経営者で占められている。

トップは、SNS「QQ」「WeChat」、スマホ決済の「WeChatペイ」を運営する他、世界のゲーム開発会社を次々と買収し、世界最大のゲーム企業になったテンセントの創立者ポニー・マー。2820億元の資産は、日本円で約4.7兆円になる。

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▲上位20位までのランキング。IT企業と不動産開発がほとんどを占める。

深圳、北京、杭州がIT都市、出遅れる上海

また、地域別の富豪人数ランキングでは、圧倒的に強いのが深圳市がある広東省だ。以下、北京、浙江省杭州市がある)、江蘇省上海市と続く。

この10年で、上海市が下位に後退した。上海市は、アジアの金融の中心で、さらに不動産開発会社もあり、中国の中では長い間、経済が図抜けた都市だったが、テンセントの深圳、百度、シャオミーなどの北京、アリババの浙江省などが伸びてくると、上海は相対的に後退をしてしまった。上海市の周辺地域である江蘇省(南京市、蘇州市など)にもランキングで抜かれ、上海の元気のなさが目立つ。

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▲地域別では、上海市が大きく後退している。金融の中心地であることは変わりないが、ITの波に乗り遅れてしまったところがある。

次にくるのは医薬生物領域か

中国のIT産業は、まだまだ成長空間を残しているが、すでに家電や携帯電話といった製造業、ネットサービスなどには頭打ち感も出てきている。つまり、今、きらびやかに見えるIT企業も、数年先はわからない。

実は、この1000人ランキングを集計すると、最も多い富豪は医薬生物領域だ。上位にランキングされる人がいないので現在は目立っていないが、次の中国経済を支える産業は、医薬品になるのかもしれない。

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▲業種別にみると、最も多いのは医薬生物。次の中国経済を支える産業になるのかもしれない。

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中国巨大キャリア「中国移動」の凋落が始まった

中国で時価総額の大きな企業といえば、テンセント、アリババというIT企業がトップだが、その他は携帯電話キャリアの中国移動、石油の中国石油、マオタイ酒の貴州茅台、その他各銀行というのが常連だった。しかし、巨大キャリア、中国移動が時価総額ランキングトップ20の中で、唯一時価総額を減らし、ランキングを下げたと捜狐が報じた。

 

元は国営企業の中国3大キャリア

中国の携帯電話キャリアは、主に3つのキャリアが競争をしている。中国移動、中国聯通、中国電信の3つだ。しかし、加入者数はまったく違う。中国移動が約7億人、中国聯通が約3億人、中国電信が約2億人だ。事実上は、中国移動の1強を、2キャリアが追いかけているという構図だ。

しかし、この3社はいずれも国営企業だった中国電信が元になっている。2000年に携帯電話事業を担う部署が中国移動となった。元の中国電信は加入電話事業を担うことになった。しかし、急増する携帯電話加入者に対応をするため、2002年に中国電信も携帯電話キャリアとなり、北部地域担当が中国聯通、南部担当が中国電信となった。

つまり、3キャリアは兄弟会社のようなものだが、現在では3キャリアが激しく競争をするようになっており、中国の携帯電話コストは急激に下がってきた。

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▲中国の3大キャリア。1強+2弱体制だったが、中国移動の凋落が鮮明になりつつある。

 

高コスト体質になっている中国移動

その最大のキャリアである中国移動の経営が苦しくなっている。中国移動といえば、中国企業時価総額ランキングでは常に5位以内に顔を出す超巨大企業。しかし、2017年のランキングでは6位となった。多くの専門家が驚いたいのが、ITを中心に好景気に沸いている中国で、トップ20企業はいずれも時価総額を伸ばしているのに、中国移動だけが9.9%のマイナスになったのだ。

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中国企業時価総額ランキング。IT企業の他、銀行の時価総額が大きい。トップ20企業が業績を伸ばす中、中国移動だけが時価総額を減らした。


値下げにより収益が悪化した中国移動

中国移動の低迷は、一言で言えば、老舗巨大キャリアの殿様商売のツケが回ってきたということにつきる。回線品質は確かに中国移動が優っていたが、通話料やパケット通信料は他の2キャリアよりも高かった。

特にスマートフォンが登場して、2キャリアは、パケットし放題料金の価格競争を始めたが、中国移動はなかなか値下げをしなかった。これを嫌って若い世代を中心に、中国移動から離脱するユーザーが増え始めていった。

特に、天津市湖北省江西省海南島などで、番号そのままで他キャリアに移れる番号ポータビリティー制度が始まってから、ユーザーの流出が顕著になってきた。また、QQやWeChatなどのSNS、音楽、映像の配信サービス、スマホゲームを運営するテンセントと中国聯通は、テンセントが運営するサービスへアクセスするパケット通信費が無料になるテンセント王カードを発売し、これがヒット商品となり、あっという間に5000万人のユーザーを獲得した。

この流れを食い止めるため、中国移動もパケットし放題料金の値下げに踏み切ったが、これが収益を圧迫する原因となった。

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▲テンセント王カードの購入サイト。テンセントのサービスにアクセスするパケット代が無料になる。最も安いプランは月19元(約320円)から(通話料、一般のパケット通信費は従量制)。

 

厳しさが予想される中国移動の今後

しかも、専門家は中国移動の将来を厳しく見ている。中国移動の本質的な問題は、中国最初の携帯電話キャリアであるため、2G、3Gの施設がまだ整理しきれてなく、すべてにおいて高コスト体質になっていることだ。中国聯通、中国電信は、新しいキャリアであり、加入者数も多くなかったため、その分、身軽で古い設備を切り捨てて低コストを実現することができている。

そして、今、5G時代を迎え、各キャリアとも5G施設の拡充競争を始めている。記事では、これは小さな問題ではない、中国移動は重大な危機を迎えていると記している。数年内に中国の携帯電話キャリアは、大きな再編を迎えることになるのかもしれない。

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▲中国最大のキャリア中国移動のショップ。中国のどの都市に行ってもこの青い看板を見かける。

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ブルーオーシャンに漕ぎだし始めた中国ロボット産業

中国はロボットの分野では、まだ日本に遅れをとっている。技術レベルがなかなか日本に追いつくことができない。そこで、中国が注目しているのが人工知能とロボットを組み合わせた自動ロボットの世界だ。さらに、昨年あたりからにわかに水中ロボットの世界が熱い注目を浴び始めていると智東西が報じた。

 

中国スタートアップが熱い視線を注ぐ水中ロボット

中国はあらゆる分野で日本に追いつき、一部では日本を凌駕しているが、圧倒的に立ち遅れているのがロボット分野だ。サーボモーター、コントローラーなど精密制御の技術が未成熟なのだ。

そこで、中国では日本とは異なる市場=ブルーオーシャンに進出をしようとしている。例えば、人工知能とロボットを組み合わせて、物流拠点の仕訳ロボットなどの分野では成功をしている。

さらに、狙っているのが文字通りのブルーオーシャン=海洋で、水中ロボットの開発がにわかに熱気を帯びてきた。密閉技術、防水技術などが必要になるが、要は水中ドローンなので技術開発にも馴染みがあり、また用途を工夫することで市場を創り出すことができ、その市場でのナンバーワン企業になれる可能性があるからだ。

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▲潜行科技のGladius。リモート操作で水中撮影を行う。

 

技術的難関は、防水と浮力バランス

水中ロボットは、人が操縦するタイプのものと無人で移動するタイプのものに分類できる。いずれの場合も、2つの技術的難関があり、後発の中国ロボット産業にとっては難関がある方がチャンスが生まれやすい。その難関を発想を変えることで突破すれば、市場を拡大することができるからだ。

水中ロボットの技術的課題のひとつは防水性だ。外殻によって密閉する技術、また内部の設備を個々に防水する技術を確立しなければならない。もうひとつは、水中でバランスを取る技術だ。水中では浮力が働くので、この浮力を計算して、水中ロボットのバランスを維持しなければならない。ロボット内部は、パーツごとに浮力が異なるので、現実には精密な重力分布を測定し、内部デザインを微調整していく必要がある。

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▲深圳吉影科技の波塞冬。120mの深度まで潜行できる。養殖業などでの業務利用を考えている。


既存IT企業のエンジニアが続々と起業

中国の水中ロボットメーカーの特徴は、スタートアップ企業が多いということだ。主だった企業でも2012年以降の創立が多く、ほとんどはIT企業に勤めていたエンジニアが起業している。

例えば、潜行科技のGladiusは、魚雷の設計をベースにした一般向けの水中撮影ドローンだ。ファーウェイ、LG電子、中船重工研究所などの海好きのエンジニアが集まって起業をした。

天津深之藍の白鯊MIXは、水中スクーター。水族館での作業や、海での娯楽に使われる。

北京臻迪はCES2018にPowerDolphinを出店した。4K画質で毎分30フレームの動画撮影ができる。1000m以内であれば、リモートでの操縦が可能。魚群を探索する目的に使われる他、海底地図の作成、高画質の海中撮影などに使われる。

深圳吉影科技の波塞冬は、最大120mの深度まで、海上の人間がリモートで操縦ができる。最大で5時間航行することができ、水中撮影が可能。専用のアプリからの操縦もできる。養殖などの作業、検査に使われる。

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▲水中ロボットを開発するスタートアップも増え始めている。多くが2012年以降に設立されている。

 

水道管のお掃除ロボットなど用途創出が鍵になる

水中ロボットは4つの市場で需要が生まれると見込まれる。ひとつは水産業だ。特に養殖の場合、生育状況を測定、改善するための作業は、人が潜水をするしかなかった。これは専門技術を必要とし、疲労度の高い作業で、なおかつ危険もともなう。この作業の一部をロボットに置き換えることにより、養殖業は大きなコストダウンが可能になる。

2つ目は、船体の水中部分の清掃だ。船体に付着した油、生物を除去するのは、今の所、人手が基本で、時間と手間がかかる。これを自動化することは大きな意味がある。

3つ目は、都市部の水道管の清掃だ。中国の都市化が始まって30年、上水道管の劣化が社会問題になりつつある。特に下水道管の劣化、閉塞が大きな問題で、降雨時に排水がうまくいかず、道に溢れるという現象が起こるようになり、西安市天津市では都市生活が支障をきたすほどの問題になっている。このような水道管の中を走り、検査をし、清掃する水中ロボットが求められている。

4つ目は、レジャー用だ。マリレジャーで、水中スクーター、水中撮影ロボットなどの需要が高い他、水族館、マリンレジャー施設などでの作業用にも需要がある。

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▲天津深之藍の白鯊MIX。水中スクーター。マリンレジャーにも使われる他、水族館、プールなどでの作業に使うことも想定している。

 

ブルーオーシャン状態が続く水中ロボット

水中ロボットのトレンドは、小型化、低価格化だが、さらに人工知能、ドローン技術を応用して、完全自律あるいは部分自律をするロボットに需要が集まりつつある。細かく人が操縦するのではなく、大まかな経路を指示してやるだけで、細かいところは自分でバランスを取り、判断をしながら進んでくれるというものだ。

水中ロボットは、需要が高い割に、乗り越えなければならない技術的ハードルが高いために、参入してくる企業が意外に少ない。まさに、文字通り、海洋はブルーオーシャン市場の状態にある。

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▲北京臻迪のPowerDolphin。高画質の動画撮影ができ、CES2018にも出展され、国際的に注目をされている。

 

行列のできないカフェ「ラッキンコーヒー」が大躍進

創業してわずか3ヶ月のカフェ「ラッキンコーヒー」が大躍進をしている。すでに10億元(約170億円)を投入し、5月末までに500店舗に拡大する計画を公表した。その躍進の秘密は、ユーザー体験を一新したことにあると新消費が報じた。

 

スターバックスがリードする中国のカフェ市場

中国でカフェ競争が激化をしている。1999年に米スターバックスが、北京市故宮の中に店舗を開いて以来、2007年には英コスタコーヒーが進出。それを見て、国内系のパシフィックコーヒーなども店舗数を増やしていった。

中国のコーヒー消費量は、毎年15%程度伸び続け、2020年には1兆元(約17兆円)市場、2030年には2-3兆元市場に成長すると見込まれている。

スターバックスは、近い将来、中国が同社最大の市場になると見込み、2021年までに5000店舗を展開する計画を立てている。さらに、昨年には上海市に高級業態であるリザーブ・ロースタリーを開店。焙煎工場が併設をされ、高級コーヒーをその場で飲んだり、豆を購入できる。リザーブ・ロースタリーは、米国シアトル市に続いて2店舗目で、規模はシアトル市1号店の2倍になる。また、中国国内に焙煎工場が設置されたことで、新鮮なコーヒー豆を中国国内の店舗に供給できることになり、コーヒーの味も格段に改善されることになる。

また、英コスタコーヒーも2022年に700店舗展開の計画を進めている。さらに、ケンタッキー、マクドナルドというファストフード、セブンイレブンなどのコンビニも挽きたてドリップコーヒーを始めている。

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スターバックスが上海に開業したリザーブ・ロースタリー。中国人が好むゴージャスなデザイン。CGのデザイン画ではなく、実写写真。

 

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スターバックスが上海に開業した高級店「リザーブ・ロースタリー」。品質の高い豆で淹れるスペシャリティコーヒーが楽しめる。焙煎拠点ともなり、中国のスターバックスコーヒー全体の味も向上した。

 

行列ができない人気カフェ「ラッキンコーヒー」

国内系カフェは一歩遅れをとっている形だが、昨年創業したばかりのラッキンコーヒーが、大人気となり、10億元の資金を投入して、5月末までに500店舗展開する計画を発表した。この計画が成功すれば、国内系最大のカフェチェーンとなり、スターバックスに対抗できるカフェとなる。

人気の秘密は「行列ができないカフェ」であるという。

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▲ラッキンコーヒーの店内。店内客だけでなく、テイクアウト客を重視することで、客数を大幅に増やした。

 

コーヒーは高く、滞在時間が長い中国のカフェ

都市部では、そこかしこにカフェがある状況になってはいるが、中国人にコーヒーを飲む習慣が定着しているとはまだ言えない。中国全体のコーヒー消費量の70%はインスタントコーヒーで、豆を挽いてコーヒーを楽しんでいる家庭はまだまだ少ない。美味しいコーヒーが飲みたいときは、カフェにいくというのが常識で、それでカフェに人が集まっているところがある。

しかし、問題は、コーヒーはまだまだ高価格の飲み物であるという点だ。例えば、スターバックスではラテが36元(約610円)する。日本人の感覚でも高く感じるし、ペットボトル飲料が5元(約85円)程度であることを考えると、コーヒーはかなり高価格の飲み物になる。

そのため、顧客の多くはビジネス街の高収入のホワイトカラーだ。しかも、高い飲み物であるので、みな滞在時間が長い。他の国と同じように、MacBookを開いて仕事をしているというのが基本で、本を読む人、友人同士でまったりする人など、雰囲気はいいが、客席の回転率は極めて悪い。これが売り上げの足枷となってしまって、価格を下げらない状況にある。

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高い飲料なのに、行列に並ばなくてはならない不満

ラッキンコーヒーの銭治亜代表は、新消費の取材に応えた。「コーヒーは素晴らしい飲料ですが、中国ではまだじゅうぶんに注目されていませんし、コーヒーを飲む習慣も定着してしません。課題は二つです。ひとつは本格コーヒーの価格が高いこと。もうひとつは購入のユーザー体験が悪すぎることです」。

中国人に評判が悪いのが、行列に並ばされることだ。注文レジに並ばなければならず、商品カウンターに並ばなければならない。さらに、席を自分で確保する必要があり、混雑時には席がないと店員とトラブルになるケースもある。露店で安いスイカジュースを買うのに並ぶのであればともかく、かなり高級で高価な飲み物を買うのにこれはないだろうと感じてしまうのだ。そういう顧客が、コンビニやファストフードのコーヒーに流れてしまうのではないかと、業界人は恐れているという。

 

ユーザー体験と低コストを同時に実現する

ラッキンコーヒーは、この2つの課題を解決した。ラテの価格を21元からにしたのだ。しかし、品質を下げて価格を下げたわけではない。むしろ、品質はあげている。世界バリスタチャンピオンシップで3位に入賞したバリスタに依頼をし、中国人の嗜好に合ったコーヒーの焙煎、挽き方を研究した。さらに、原料とする豆は、スターバックスが採用しているものより20%から30%も高価なものを使っている。それで、どうして価格を安くできるのか。作業効率とユーザー体験を同時に高める方法を採用したからだ。

 

事前にアプリで注文、行けば商品は用意してある

ラッキンコーヒーは、一般のカフェと同じように、注文カウンターに並んで、店内でコーヒーを楽しむこともできる。しかし、受けているのは、アプリからの事前注文だ。アプリを開くと、最も近い店舗が表示され、注文をするといつできあがるかという予想時間が表示される。これを使って、事前注文をしておけば、カウンターに並ぶ必要はなく、できあがり時間に商品カウンターに行けば、待つことなく商品を受け取れる。アプリが表示するQRコードを見せれば、すぐに商品がでてきて、スマホ決済で自動的に支払いが行われる。

アプリからの注文をする人は、店内で飲むというよりもテイクアウトするケースが多い。典型的なのは、近くのオフィスで働いていて、手元のスマートフォンからコーヒーを注文、出来上がり時刻に取りに行き、飲みながらオフィスに戻るというパターンだ。

これはユーザーにとっても「行列をしなくていい」というユーザー体験の向上にもなるが、ラッキンコーヒーにとっても大きなメリットが生まれる。ひとつは、テイクアウト客が増えるというとこは、店内の回転率(1日の客数/席数)は大きく向上するということだ。

もうひとつ大きいのが、注文の平準化ができることだ。コーヒーを1杯作るのには結構時間がかかる。1杯1杯豆を挽いて、抽出をして、ラテの場合は、ミルクを泡立てる必要がある。1杯を作るのに5分程度はかかってしまう。そのため、グループ客が入ってきただけで、行列ができ、来店客を待たせることになってしまう。アプリからの事前注文が多くなれば、数分後の注文数の予測が立つようになる。間に合わない場合は、でき上がり時間を数分遅らせても、事前に注文客に明示しているのだから、ユーザー体験を損なうわけではない。

こうして、ユーザー体験の向上と、作業効率の向上を同時に行うことで、コストを下げ、低価格でコーヒーを提供できるのだ。

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▲ラッキンコーヒーは、アプリから注文ができる。商品のできあがり時間が表示されるので、その時間に合わせていけば、待たずに商品を受け取れる。このアプリ内で決済も完結する。

 

1杯買うともう1杯無料で、新規顧客を連れてきてもらう

さらに、アプリからの事前注文を採用することで、さまざまなキャンペーン施策を打てるようになった。好評なのは、「1つ買うともう1つ無料」クーポンだ。このクーポンを使ってコーヒーを注文すると、1杯分の値段で2杯購入できる。これを使って、ラッキンコーヒーのファンが、友人知人に「コーヒーおごるよ」と言って、2杯を持って帰り、ラッキンコーヒーのファンを増やしてくれる。

カフェは意外にITやネットを活用していない。ラッキンコーヒーは、ネットをうまく活用することで、新しいユーザー体験を提供し、急速に拡大をしている。なお、代表の銭治亜は、前職はタクシー配車サービスUCARのCOO(最高執行責任者)だった。つまり、ITをビジネスにどう活かすかについては熟知をしているのだ。飲食業界出身ではないことで、新鮮な目でカフェを見ることができているのかもしれない。

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ライブ型クイズ番組。急激に流行して、急速に冷え込む

中国のネット界で、2018年の台風の目になると言われていたのが、ライブ型クイズ番組だ。しかし、今年になってわずか2ヶ月。早くもライブ型クイズ番組の配信終了が出始め、ブームは急速に縮小していると鉛筆道が伝えた。

 

無料で参加して、全問正解で必ず賞金獲得

このライブ型クイズ番組は、毎日決まった時間に配信されるクイズ番組ライブ。実際に回答をすることができ、12問連続で正解すると、予告された賞金を全問正解者で山分けすることができるというもの。1問でも間違えると、その時点で失格となる。参加費用は無料で、賞金獲得のチャンスがあるため、昨年米国でHQトリビアが爆発的な人気を得て、昨年末から中国でも多数のライブ型クイズ番組が登場している。

「百万家」「沖頂大会」「百万英雄」「答題線」「百万選択王」など、あっという間にライブ型クイズ番組が登場し、多くの利用者を獲得した。今年、2月の春節(中国の旧正月。自宅で家族とすごすことが多い)では、大量のアクセスがあると、各番組とも準備を進めていたが、期待に反して、普段よりもアクセス数が少ないほどだった。中には、「調整中」と称して、配信を急遽中止してしまった番組もある。

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▲ライブ型クイズ番組では、MCが登場して、クイズ問題を読み上げる。各番組とも著名人をMCに起用するなど、競争が激化している。

 

急騰するユーザー獲得コスト

このようなライブ型クイズ番組の目的は、ユーザーを集めることで、単独でライブ型クイズ番組を運営するのではなく、動画配信サイトやSNSが主催をすることが多い。本来の配信アプリやSNSアプリをダウンロードしてもらう、ユーザー登録をしてもらうことが目的だ。

中国でのユーザー1人の獲得コストは、うなぎ登りに上がっている。数年前は1人数百円で獲得できると言われていた。ユーザーを獲得するために、ウェブ広告、雑誌新聞広告、テレビ広告などを打ち、そのコストを獲得したユーザー1人当たりで割ったものがユーザー獲得コストだ。ライブ型クイズ番組は、1回あたり数十万円の賞金を支出する必要があるが、それで数万人の新規ユーザーを獲得できるのだから、低コストで新規ユーザーを獲得できる方法として利用されている。

このライブ型クイズ番組の新規ユーザー獲得の原動力となっているのが、復活カードの存在だ。ユーザー全員に招待コードが発行され、知り合いなどの新規ユーザーがこの招待コードを入力して新規登録をすると、両方のユーザーに復活カードが与えられる。この復活カードがあると、クイズに間違えても失格になることがなく、クイズを続けることができる。この招待コードがSNSで拡散し、新規ユーザーをひき入れる原動力になっている。

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▲ライブ型クイズ番組のクイズ画面。「神舟5号から神舟11号まではみな何?友人宇宙船。ミサイル。人工衛星」という問題。10秒以内に正解をタップする。

 

地方都市の低所得者を中心に火がついた

調査会社「企鵝智酷」が公表した「全国ライブクイズ番組ユーザー調査報告」によると、このライブ型クイズ番組に参加しているユーザーのプロフィールは、地方都市の20代女性が主体になっている。意外に大都市住人は利用をしていない。また、ユーザーの所得も月5000元(約8万4000円)以下が半数以上と、比較的低所得者中心だ。また、半数以上が、一人で楽しむのではなく、友人や家族と一緒に回答して楽しんでいるという。

ライブ型クイズ番組の配信時間は、1日2回程度、例えば午後3時と午後7時などと決まっている。そのため、地方都市の住人が、自宅や寮で、家族や友人と楽しんでいることが多いのだと思われる。

 

急速に荒れていくライブ型クイズ番組の世界

しかし、クイズ番組といっても、クイズを楽しむのが目的ではなく、多くの人は実際に賞金がもらえることが面白くて参加している。そのため、すぐにライブ型クイズ番組の世界は荒れていった。

当然、出てくるのが復活カードの売買だ。さらに、有料でクイズの解答を教えてくれるサービス、アプリも無数に登場している。2台のスマートフォンを用意し、1台でライブ型クイズ番組を視聴し、もう1台で解答を教えてくれるアプリを起動する。ライブ型クイズ番組では、MCが音声で問題を読み上げる。解答アプリは、その音声を聞き取って、人工知能が分脈を解析し、最適な検索を行ってくれるのだ。これをわずか数秒で行う。

さらに、過当競争により番組も低俗化をした。どの番組も、MCが登場をして、クイズの案内をするのだが、露出度の多い美女がMCとして登場をし、恋愛や性的な内容のクイズを出すということが問題視をされた。

また、香港と台湾を国家と考えないと正解にならないクイズを出題したため、炎上をしてしまった番組もある。

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▲出題の音声を聞き取り、人工知能が分脈解析を行い、最適なWebページを表示してくれるお助けアプリ。現在では、ほとんどの人が利用しているのではないかと思われる。

 

ずるをする人が増えすぎて、賞金が獲得できない

最大の問題は、このライブ型クイズ番組が、クイズを楽しむ番組ではなく、賞金欲しさで視聴している人がほとんどだということだ。昨年のうちは、参加者も少なく、賞金を手に入れた人が続出した。しかし、今では、参加者の人数も大きく増え、しかも違法な手段で手に入れた復活カードを使い、違法な手段を使ったチートサービスを利用している人が増えてきた。とても、普通の人が12問正解をすることが難しくなり、うまく全問正解をしても、賞金は正解者全員で均等分配するため、一人当たりの賞金額は小さくなってしまっている。

つまり、賞金が欲しくて参加をしているのに、ずるをする人が増えすぎて、アホらしくなってしまっているというのが、参加者が減少している原因だ。今後、各番組運営者が番組内容を改善して、再度盛り上がることも否定はできない。しかし、そもそもが新規ユーザーを低コストで獲得できる方法として利用されたことから、各運営者は獲得力が弱くなれば、別の方法を模索するのではないかと見られている。

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