中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

米中で始まる、人工知能人材の争奪戦

現在、テック関係者の興味は、人工知能に集中をしている。しかし、懸念をされているのが人材不足だ。現在、人工知能関係の企業が続々と誕生していて、人工知能を扱える人材は、全世界で100万人が必要だと言われているが、現在は30万人しかない。深刻な人手不足で、各国で人材の争奪戦が始まっていると新華社が報じた。

 

人工知能人材は、米国8万人、中国4万人

人工知能人材の多くは米国にいる。世界で人工知能関連のスタートアップは2617社が創業したが、米国は1078社、中国が592社と、米中でほとんどを占めている。この後に、イギリスと、イスラエル、カナダが続く。

米国1078社の社員数合計は7万8700人、中国592社の社員数合計は3万9200人。人材的にも半数以上が米中に集中していることになる。

 

大学が人工知能人材の供給源になっている

特に中国では人材不足が深刻になっている。米国のIT企業は、優秀な研究者に的を絞り、その研究者が所属する大学のそばにサテライト研究所を作るという方法で、卒業者を確保するようにしている。しかし、中国の大学での人工知能研究のレベルはまだ低いため、このようなサテライト研究所戦略で、人材を確保することができない。

給与待遇をよくして、人材を確保するしかなく、すでに人工知能関連の初任給(月給)は2.58万元(約44万円)と突出するようになり、さらに自社株を格安で購入できるオプションをつけたりしているが、それでも人材確保が難しくなっている。

f:id:tamakino:20180105173546p:plain

▲米中の人工知能関連の企業数。青が米国、緑が中国。米国は機械学習自然言語処理など基礎技術の開発企業が多く、中国はロボット、音声識別など応用に直結する企業が多い。中国はまだ大学の研究拠点が整ってなく、基礎技術をじっくりと開発することができず、応用した製品化を急ぐ傾向にある。



中国は、産学官で人材の育成と獲得をおこなう

中国政府は、2030年に人工知能の領域で米国を凌駕し、世界の中心になる目標を公にしている。しかし、専門家からは、人材育成に力を入れないと米国との差は縮まらないと指摘されている。

そのため、大学では人工知能専門家の育成により一層力を入れるとともに、企業は海外人材の獲得に力を入れ始めている。キーになる研究者を中国の大学に招聘し、それを企業がバックアップするだけでなく、若い人材を米国やそれ以外の国から招聘する仕組みを作り上げようとしている。

この仕組みが動き始めると、大量の人工知能研究者が中国へ行って仕事をするようになり、世界での人材争奪合戦はますます激化していくことになる。人工知能人材確保戦略を取らない国では、深刻な人材不足に頭を悩ますことになるだろう。

f:id:tamakino:20180105173559p:plain

▲主要IT企業の人工知能研究者数。グーグルが圧倒しているが、中国の百度、テンセントも無視できなくなり始めている。

 

 

2017年、中国スタートアップ死亡リスト

中国のスタートアップは勝負が早い。3年がひとつの目安になっていて、創業3年で事業が軌道に乗らなければ、廃業して次のビジネスを考える。そのため、大量のスタートアップが誕生して、大量のスタートアップが消えていく。2017年、どのようなスタートアップが“死亡”したか。i黒馬が報道などから「2017年スタートアップ死亡リスト」をまとめた。

 

企業の10年生存率は5%程度

スタートアップの生存率は意外に低い。さまざまな統計があるが、企業の5年生存率は20%程度、10年生存率は5%程度というのが、世界共通の数字のようだ。中国の場合、企業生存率はおそらくこの数字よりもかなり低いのではないかと想像される。特に5年生存率は20%もないはずだ。

tamakino.hatenablog.com

 

企業の成長段階を示す投資ラウンド

スタートアップの世界では投資ラウンドという考え方があり、中国のスタートアップを見る時に、そのスタートアップがどの投資ラウンドにいるのかを投資家たちは気にする。明確な定義があるわけではないが、その企業の成長段階を知ることができる。

投資ラウンドには、(中国の場合)シード、エンジェル、A、B、Cの5つの段階がある。シードは事業を始めるのに必要な少額の資金を自分や自分の友人から調達すること。エンジェルは、自分たち以外の個人が資金を出してくれること。事業が他人に認められたということになり、スタートアップが本格的にスタートする。

Aラウンドは、事業を確立させる段階で、企業や投資機関などからの投資資金が入り始める。Bラウンドは、確立したビジネスが拡大するフェーズ。Cラウンドは、ビジネスが軌道に乗り、付加価値をつける段階。この後は、もう株式公開ということになる。

tamakino.hatenablog.com

 

60社以上が生まれて2社が生き残ったシェア自転車

2017年は、シェア自転車を中心とするシェアリングエコノミーが吹き荒れた。シェア自転車のスタートアップは、60社以上が起業し、消えていったという話もある。報道では、このような倒産劇ばかりが伝えられ、あたかもシェアリング自転車ビジネス自体が崩壊したかのようなニュアンスで語られることもあるが、事実は逆で、淘汰整理が起こり、ofoとmobikeの2社に集約され、サービスとしてはしっかりと市民生活に定着をした。ライドシェアは、「いつでもどこでも利用できる」ことが鍵になるので、規模が大きいことが有利に働く。すでにofoとmobikeは黒字化を果たし、ofoはさらなる資金を調達し、ユニコーン企業となっている。

また、モバイルバッテリー、雨傘などのシェアリングエコノミーも数多くのスタートアップが生まれ、消えて行った。こちらは、まだ淘汰整理の段階に進んでおらず、2018年に定着するかどうかがはっきりとしてくるだろう。

f:id:tamakino:20171229142535j:plain

▲倒産したシェアリング自転車企業が放置した自転車の残骸。中国メディアがこのような写真をたびたび報道するため、シェアリング自転車産業自体が失敗したかのような印象を受けてしまうが、実際はofoとMobikeの2強に淘汰整理が行われ、サービスとしては市民生活に定着をしている。

 

f:id:tamakino:20171229142509p:plain

f:id:tamakino:20171229142516p:plain

 

ある日突然、夜逃げでフィニッシュ。金融スタートアップ

もうひとつ、スタートアップが大量に生まれ、大量の消えたのが金融分野だ。しかし、金融分野はそもそもが限りなく詐欺に近いスタートアップも多く、サービス停止や倒産ではなく、「夜逃げ」という結末を迎えた企業も多い。

この分野は、政府の規制も厳しく、中国の金融規制はある日突然に方針が変わる。自社サービスが突然に違法になってしまうこともあるほどだ。しかし、あたれば短期間で莫大な利益をあげられる分野でもあり、2018年も、数多くのスタートアップが生まれては消えていくという状況は続くと思われる。

f:id:tamakino:20171229142538p:plain

スマホ転換できなかった“老舗”ITサービスも死亡へ

2017年、特徴的だったのが、5年以上続いた「老舗」オンラインサービスでも、倒産をする企業が多かったことだ。eコマース、SNSなど、一時期は好調だったサービスでも、今年サービス停止や倒産に追い込まれた企業がある。

ポイントは、PCからスマートフォンへの移行に失敗をしたことだ。このようなオンラインサービスの多くは5年以上前に起業し、当時としてはPCベースのサービスを展開していた。しかし、中国は2012年前後から、急速にPCからスマホへの移行が始まり、現在では、生活関連のサービスの90%はスマホから利用されている。

このスマホへの転換がうまくいかなかったところが、利用者を減らし、経営が悪化し、倒産することになった。

その好例が、テンセントのSNS「QQ」だ。QQはアカウント数10億件を超え、PC時代は、中国人のほぼ全員が加入していると言われた巨大SNSだった。スマホ時代になって、スマホアプリなども配布しているが、PCベースであるために、使いやすいとはとても言えない。PCからでないと使えない機能もある。スマホ転換がうまくいっているとはとても言えず、利用者数の減少という数字には現れていないものの、アクセス時間や利用回数などは急激に落ち込んでいる。

テンセントはスマホ時代のSNS「WeChat」も提供していて、多くの人がQQではなくWeChatを使うようになっていっている。一時代を築いたQQも、スマホ時代に対応することができなかった。

f:id:tamakino:20171229142523p:plain

f:id:tamakino:20171229142530p:plain

f:id:tamakino:20171229142542p:plain  

 

2018年は無人コンビニの淘汰整理が始まる

現在、中国では人工知能関連、無人店舗システム関連のスタートアップが続々と誕生している。無人店舗である無人コンビニは、すでに淘汰整理が始まりつつある。2018年は、無人コンビニスタートアップが多く、この死亡リストに名を連ねることになりそうだ。

tamakino.hatenablog.com

tamakino.hatenablog.com

 

中国の地図アプリがユニバーサルデザインを採用へ

中国の地図アプリは、百度が提供する百度地図が最も普及をしている。しかし、そのライバルが出現した。高徳地図だ。高徳地図は、使いやすさでファンを獲得し、百度地図を追いかけていた。さらに、アリババが買収したことにより、タクシー予約やレストランガイドのプラットフォームに育ってきた。そして、視覚異常のある人にも対応するユニバーサルデザインを採用し、さらなる拡大を狙っていると環球網が報じた。

 

中国の交通事情に最適化された百度地図

中国では、長い間、百度地図が多くの人に使われていた。なぜなら、極めてよくできているからだ。グーグルマップなど、米国企業が提供している地図アプリは、車によるナビ、地下鉄などの公共交通を利用したナビが基本となり、バスなどのナビはどうしても薄くなる。しかし、バス利用をすることが多い中国の百度地図は、バスによるナビが充実しているのだ。

特に驚くのが、バス停までの徒歩のナビゲーションだ。中国の都市部は、道路の幅が広く、横断歩道が少ない。多くの場合、地下道で道の向こう側に渡る必要がある。また、立体交差が多く、目的地の建物が見えているのに、道路を渡ることができず、たどりつけないということがよくある。百度地図は、この徒歩のナビゲーションが素晴らしい。横断地下道などや立体交差下をどのように歩けばいいのかを正確に表示してくれる。旅行者だけでなく、地元に人にとっても便利な地図アプリになっている。

f:id:tamakino:20171229141810j:plain

百度地図は精密な徒歩ナビゲーションが好評。地下道などが多く、歩くルートがわかりづらい中国の都市で、きめ細かな徒歩ルートを提案してくれる。

地図をプラットフォーム化した高徳地図

百度地図の完成度が高いため、その他の地図アプリはなかなか利用者を獲得することができないでいた。しかし、最近、利用者を増やし続け、百度地図を脅かす存在になってきたのが高徳地図だ。

特に大きかったのが、2013年にタクシー配車、ライドシェアサービスの滴滴出行と提携し、高徳地図の中からタクシーを呼んだり、ライドシェアの予約をすることができるようになったことだ。さらにレストランガイドを充実させることで、「使える地図アプリ」に育っていった。百度がナビゲーション機能に重きを置いているのに対して、高徳地図は地図プラットフォームを利用してさまざまな情報提供をすることに重きを置いたものになった。

特に、2014年にアリババが買収をし、完全子会社になってからは、完成度が急激にあがっていった。今では、百度地図と高徳地図の両方を入れ、使い分けるという人も増えている。

 

中国政府が力を入れる障害者対応施設の充実

現在、党中央、国務院は、障害者問題の解決に力を入れている。特に進んでいるのが、障害者用トイレで、年の公衆トイレには、車椅子でも利用できる個室タイプのトイレが設置されていっている。ネットサービスも、障害者を考慮したユニバーサルデザインにすることが推奨されるようになった。

この動きに素早く対応したのが高徳地図で、まず、色盲視覚障害でも見やすいモードに切り替えられる機能を付け加えた。

さらに、アリババは「障害者サービス地図」サービスを提供するにあたって、高徳地図をベースにした。このサービスでは、近くの障害者対応トイレ、障害者対応教育機関など7種類の施設、3万件の場所が検索できるというもの。

f:id:tamakino:20171229141752p:plain

▲中国の地下鉄駅では車椅子対応のエレベーターはまだ多くない。このような情報は障害者から歓迎されている。

 

f:id:tamakino:20171229141757p:plain

▲障害者対応トイレなど障害者対応施設の検索もできるようになった。利用者が自分で障害者対応施設を登録することもできる。


車椅子でも移動できるルート検索

さらに、障害者用のナビゲーションにも力を入れ始めた。今年8月、障害者337名連名で、高徳地図のナビゲーションを改善する陳情があった。高徳地図により地下鉄の駅の入り口にナビゲーションされたが、そこはエスカレーターのない出入り口であったために、地下鉄に乗ることができなかったというのだ。

高徳地図の開発チームは、すぐに動いて、手分けをして主要地下鉄入り口にエスカレーターがあるかどうかの確認作業をし、障害者がナビゲーションを利用した時は、エスカレーターやエレベーターのある出入り口に誘導するようにした。

また、運営チームだけでは調査に限界があることから、利用者から車椅子が通行可能かどうかを知らせることができる仕組みも採用した。

f:id:tamakino:20171229141744p:plain

▲障害者モードでは、車椅子対応エレベーターを利用した徒歩ルートが検索される。

 

生活インフラとなっている地図アプリ

12月、高徳地図はこのような取り組みを整理した新バージョンの地図アプリを公開した。中国視覚障害者協会、中国聴覚障害者協会、中国障害者芸術団の3団体は、高徳地図を支持するという声明を発表している。

高徳地図は、利便性のみの追求ではなく、社会貢献をすることで生活インフラのひとつとして認められることを目指す戦略を取り始めている。

f:id:tamakino:20171229141804p:plain

視覚障害のある人にも見やすいユニバーサルデザインを採用した。

 

 

北京市が世界最初で完全自動運転車が走る都市を目指す

米国のグーグル(ウェイモー)と中国の百度の完全自動運転車(ドライバーレスカー)の開発競争が最終段階に入っている。商店となっているのは、一般の自動車との混在状況での試験走行だ。北京市は、自動運転車の走行試験の細則を定め、開発を推進し、世界で最初に自動運転車が走る都市を目指すとGeek Parkが報じた。

 

人間との混在状況での走行が自動運転の課題

各国で自動運転車の試験走行が行われているが、閉鎖区間での試験はさほどニュース価値は高くない。条件が制御できる閉鎖区間内での走行に失敗する自動運転では、話にならないからだ。問題は、不合理な運転を平気でしてしまう人間運転車の中に混ざって、それでも安全に運行できる技術を開発しなければならないことだ。そのためには、一般公道での試験運転が重要になる。

しかし、当然ながら、一般公道で人間と人工知能が混ざって運転をする場合、事故が起きることが避けられない。その場合どうするのか。そのような法的な問題、施策の問題が完全自動運転車の技術開発の大きな障害になっている。

tamakino.hatenablog.com

tamakino.hatenablog.com

tamakino.hatenablog.com

 

勝手に公道走行試験をやっていた百度

中国で完全自動運転技術を開発しているのは百度で、すでにアポロという人工知能プラットフォームを公表し、さらには北京市内で一般車両に混ざって、試験運行を始めている。

今年7月5日に北京国家会議センターで開催された百度AI開発者会議で、百度は市街地試験走行の映像を公開した。北京市の第五環状線で、一般車両に混ざって、無人運転走行をする様子がネットに公開された。

ところが、北京市の交通管理局がこの映像にクレームをつけた。無人運転走行は危険運転にあたり、交通違反であるというのだ。どうやら、百度は、交通管理局と事前交渉することなく、勝手に試験走行をしていたようなのだ。

この問題について、交通管理局と百度の交渉が続いていたが、北京市交通委員会は12月18日に「北京市自動運転車両試験を促進するための指導意見」「北京市自動車両道路試験管理実施細則」を発表した。この2つのガイドラインに従うのであれば、北京市内の一般公道で、自動運転車の試験走行が可能になった。

f:id:tamakino:20171227133305p:plain

百度AI開発者会議で公開された行動試験走行の様子。ロビン・リーCEOが助手席に乗車していた。走っているのは、北京市の環状5号線。周囲は普通の人間が運転する自動車だ。

 

乗車する試験運転者が事故の責任を負う

その細則によると、自動運転車には、試験運転者が乗車しなければならないとしている。試験運転者は運転はしないものの、運転に対する責任を負う。万が一、事故が起きた場合は、試験運転者が運転をしていたものとして事故処理が行われる。そのため、自動運転中に危険な状況に遭遇した場合は、試験運転者が自分の判断で、手動運転に切り替えて、危険を回避する必要がある。試験運転者は、自動車免許を取得してから3年以上経過し、過去に薬物や飲酒による運転の逮捕歴がない者とされている。

f:id:tamakino:20171227133311j:plain

百度が開発したドライバーレスかー。自動運転プラットフォームを「アポロ」と名付け、自動車メーカーなど多くの企業が参加をしている。

 

世界で最初に完全自動運転車が走行する都市を目指す北京

また、周囲の一般車が、自動運転車の試験走行であるとわかるように、試験運転者は専用のナンバーを取得する必要がある。このナンバーは有効期間が30日間しかなく、毎月専門委員会の審査を受ける必要がある。また、この専用ナンバーは、1社で5つまでと当面は制限される。

また、試験走行をする企業は、最低保証金額500万元(約8600万円)以上の専用保険に加入をするか、500万元以上の金額を賠償金用に供託する必要がある。北京市は、試験走行に対する制限も段階的に緩めていき、世界で最初に完全自動運転車が自由に走行する都市になることを目指す。

 

杭州市に無人ホテルが誕生。鍵は顔認証、操作はスマートスピーカー

12月11日、浙江省杭州市の西側、良睦路1288号に無人ホテル「レストアワー」が開業した。チェックイン、チェックアウトはスマートフォン、鍵は顔認証、部屋の備品の操作はスマートスピーカー。全自動ホテルとしては世界初になると杭州網が報じた。

 

管理スタッフ2名で運営する客室66室の無人ホテル

無人ホテルを開発したのは、杭州市の睿沃科技。杭州市には人工知能村と呼ばれる開発パークがある。睿沃科技は、そこを拠点とする、ホテル、マンションなどと人工知能技術を組み合わせることを目的としたスタートアップだ。

睿沃科技が開業したレストアワーホテルでは、ネット予約からチェックアウトまで、すべてが無人で可能になっている。ホテルも人が応対することは基本的にはなく、管理スタッフが2名と、清掃、メイキングスタッフが数名という体制で運営されている。

f:id:tamakino:20171227132031j:plain

杭州市の西側郊外に開業したレストアワーホテル。宿泊費は448元から。

 

予約はネットから。VRで部屋のタイプを選ぶ

レストアワーホテルには8タイプの部屋がある。どの部屋も、専用アプリからVRによって部屋の中を探索して選ぶことができるようになっている。部屋を選んで、スマホ決済を行えば、予約は完了だ。

チェックイン手続きも無人だ。中国では、チェックインするときに、住所氏名を記入し、身分証を提示し、なおかついくらかのデポジットを預けなければならない。これが、フロントにある専用機にWeChatペイのQRコードをかざすだけでいい。これで、事前登録してある住所氏名などが自動的に入力される。チェックイン手続きは10秒で終わるので、混雑時でも行列ができることはない。チェックアウトをするときも、同じ専用機にQRコードをかざすだけだ。客室内のミニバーなどを使った場合も、料金が自動計算され、スマホ決済から自動的に引き落とされる。

f:id:tamakino:20171227132025j:plain

▲チェックイン、チェックアウトはスマートフォンで行う。WeChatペイのQRコードをかざし、宿泊費はWeChatペイから決済される。

 

ルームキーは顔認証

中国のホテルでは、チェックインをするとルームカードが渡されるのが一般的だ。これが部屋の鍵にもなっている。しかし、レストアワーにルームカードはない。チェックインをしたときに、顔が自動的に撮影をされ、顔がルームキー代わりになる。自分の部屋の前に立ち、顔をカメラに向けるだけで鍵があく。ルームカードをなくすことも忘れることも心配する必要がない。

f:id:tamakino:20171227132035j:plain

▲廊下もなかなか面白いデザイン。ルームキーは顔認証なので、ルームカードを持ち歩く必要はない。

 

室内備品はスマートスピーカーで

室内もリモコンやスイッチのようなものはほとんどない。その代わり、Rokidのスマートスピーカーが置いてある。声で「カーテンを開けて」「灯りをつけて」「テレビをつけて」などと言うだけで、室内を制御することができる。さらに、「音楽をかけて」「映画を見せて」「歯ブラシを持ってきて」などという命令もできる。

f:id:tamakino:20171227132038j:plain

▲部屋は8タイプあるが、人気なのがこのロフトタイプの部屋だという。すべて、専用アプリからVRで室内を探索できるようになっている。

 

ヒントとなったのは日本のカプセルホテル

睿沃科技創設者である王琦氏は、この構想を日本のカプセルホテルを見て思いついたという。「日本のカプセルホテルは、ホテル全体が自動販売機のようなことになっているのです。デポジットを払う必要もなく、フロントにも人はいません。必要なものはすべてお金を投入すれば、出てくるようになっています」。

レストアワーホテルは6タイプの客室が合計66室用意されている。宿泊費は448元(約7700円)から628元(1万800円)まで。すでに、中国のホテル予約サイトにも掲載されていて、レビューも5点満点をつけている人が多い。

tamakino.hatenablog.com

 

 

アリババ社員がブラック労働に耐えられる理由

中国杭州市に本拠を置くアリババ。タオバオ、TmallといったECサイトで急成長し、現在ではQRコード方式スマホ決済「アリペイ」を核として、シェアリング経済、社会信用スコアなど、社会の仕組みを変えていくほどのインパクトがある事業を進めている。そのアリババの社員は猛烈に働く。ブラック労働といっても過言ではないほどだが、離職率は極めて低いという。なぜ、アリババ社員は過酷な労働に耐えられるのか。三茅網が解説した。

 

海外帰国組IT企業と国内組IT企業

現在中国で、最も勢いのある企業はBATJあるいはBATXなどと言われる。BATJとは、百度、アリババ、テンセント、京東の4社の頭文字で、BATXは京東の代わりにシャオミーが入る。この5社は、2種類に分けられる。それは創業者が海外帰国組か国内組かという分類だ。当初は、百度のように海外の大学で学び、中国に帰国し創業した帰国組によるIT企業に勢いがあった。しかし、今、勢いがあるのがアリババ、テンセント、京東、シャオミーのような留学経験のない国内組により創業されたIT企業だ。

tamakino.hatenablog.com

 

海外帰国組のロビン・リー

アリババの創設者ジャック・マー会長は、百度の創設者ロビン・リーCEOとよく比較をされる。ロビン・リーはトップの成績で北京大学に入学をし、卒業後、ニューヨーク州立大学に留学。その後、インフォシークなどのシリコンバレー企業で働き、帰国をして百度を創設した「帰国組」。現在の百度は、独自のイノベーションを起こしているが、当初は「グーグルの真似」をしていた。帰国組経営者のIT企業にはこのパターンが多い。中国のインターネットが外部と遮断された「巨大LAN」になっていることを利用して、海外の優れたサービスを真似るところから出発している。

tamakino.hatenablog.com

 

国内組のジャック・マー

一方で、ジャック・マー会長は、大学進学にも苦労するほどの劣等生。海外留学の経験もない「国内組」。海外のサービスを真似しようにも、海外の事情をよく知らない。そのため、中国の社会状況をよく観察し、中国独自のサービスを構築してきた。最初は、「世界の工場」と呼ばれた中国で、企業間が機械部品などの商取引をマッチングさせるBtoBサイト「アリババドットコム」で成功。この仕組みをそのまま使い、CtoC個人間取引サイト「タオバオ」、BtoCショッピングモールサイト「Tmall」で成功。ECサイトで利用していたサイト内通貨を、実体店舗でも使えるようにした「アリペイ」で、中国社会を変えつつある。

中国は、外からイノベーションを持ち込む海外組と、内からイノベーションを起こす国内組で、外と内から変革をしつつある。

tamakino.hatenablog.com

 

4倍の給料を提示しても引き抜くことができないアリババ社員

そのアリババは、おそらく中国一のブラック企業かもしれない。社員はほぼ全員、猛烈に働く。就業時間の規則はあるものの、誰も詳しく知らないという状態だ。それでも、ジャック・マー会長は「他企業が4倍の給料を提示しても、アリババ社員を引き抜くことはできない」と豪語する。仕事は確かにハードだが、それ以上の待遇が用意されているからだ。

中国人は、誰もが食べることに貪欲だ。アリババ本社は、2フロアが社員食堂になっており、だいたい20元(約340円)で一食を食べることができる。10年前の中国を知っている人にとっては、あまり安いとは思えないかもしれないが、今の中国の外食は価格が上昇し、東京とほぼ変わらない。ちょっとしたレストランに行って、一人100元(約1700円)以内に収めようとすると、注文を工夫する必要がある。外食の価格が上昇し続ける中国で、20元で食べられる社員食堂は、ありがたい存在だ。

f:id:tamakino:20171226162018j:plain

▲基本ランチセットは20元(約350円)。ホテルレストランのスタッフが雇用されていて、味は高級ホテルクラスだという。

 

f:id:tamakino:20171226162006j:plain

▲アリババの社員食堂では、15元(約250円)の定食が人気。中国の外食は値上がりを続け、感覚的には東京よりも高く感じるほど。その中で、15元の定食は格安だ。

 

f:id:tamakino:20171226162011j:plain

▲副食は1品わずか4元。種類も多く、味も好評だ。

 

月収は34万円、プラス自社株、プラスボーナス

給与に関する待遇も破格だ。研修期間を終えて、一人前の仕事ができるようになると、給与は月2万元(約34万円)ほどになる。また、社員は自社株を2000株まで購入することができる。アリババが米国市場に上場する前に2000株を持っていた社員は、タダ同然で2000株分の価値=約100万元(約1700万円)の資産を手に入れたことになる。

また、毎年4月末には、アリババの年度が終わり、業績と各社員の成績に応じてボーナスが支給される。額は、社員個人の業績次第だが、大きな事業を成功させた社員には数千万元のボーナスが支給されたこともある。

f:id:tamakino:20171226162000j:plain

▲アリババがいちばん忙しくなる11月11日独身の日セール。セールが終わると、ジャック・マー会長自ら大きな魚をさばき、社員に振る舞うのが恒例になっている。

 

マンションも4割引で購入、無利子ローンも

さらに、福利厚生も充実している。住宅資金として、社員は30万元(約510万円)の無利息融資を受けることができる。住宅資金としては額が小さく思えるが、アリババは杭州市内に独自にマンションを建設していて、アリババ社員は4割引で購入できるのだ。

また、アリババでは、社内結婚を奨励していて、結婚前提の合コンがたびたび開催される。また、子作りも奨励されていて、妊娠をした社員には300元(約5000円)の奨励金と、電磁波を遮断するエプロンが贈られる。

f:id:tamakino:20171226161955j:plain

▲アリババ社員はみな猛烈に働くが、仲もいい。日本が失ってしまった家族主義的企業経営が生きている。

 

昭和の日本企業のような家族主義と猛烈労働

このような待遇、福利厚生策を聞いて、中高年は思い当たることがあるだろう。それは昭和の日本企業とそっくりなのだ。猛烈に働くけど、社員を家族のように大切にする。給与だけではなく、住居、結婚、子作りまで面倒を見る。

確かに百度などの海外組IT企業から見ると、アリババは泥臭く洗練されていないかもしれない。しかし、ジャック・マー会長は、このような家族的経営が中国人の心を掴めることを知っているのだ。アリババは、中国IT企業の中でも離職率が図抜けて低いことでも有名だ。また、スピンアウトして起業する社員が多いことでも有名だ。中国のIT企業は、シリコンバレーの真似をするところから始めて、中国独自のあり方を築き上げるようになっている。

サーモス 保温弁当箱 約0.8合 マットブラック DBQ-362 MTBK

サーモス 保温弁当箱 約0.8合 マットブラック DBQ-362 MTBK

 

 

わずか数秒で、20億人を識別。中国の監視カメラシステム「ドラゴンフライアイ」

上海のYituが開発をした監視カメラシステム「ドラゴンフライアイ」は、人工知能により数秒で20億人を識別するという性能を持っている。犯罪の抑止効果が高いことから、各地公安が続々と導入を始めていると南華早報が報じた。

 

ボタンが一切ないエレベーター

上海のIT企業Yituの本社ビルのエレベーターには、階数ボタンが一切存在しない。あるのは監視カメラと小さなモニターだけだ。顔認証で、訪問予定リストにない人が乗り込むとエレベーターは動かない。事前に受付を済ますと、自動的に顔が撮影され、顔認証をして適切な階にエレベーター自動的に移動をする。

オープンスペースには、大きなモニターにYituのフロアマップが描かれ、人を指定するとその人がどの場所にいるのかがリアルタイムでわかるようになっている。企業のセキュリティーをカードに頼るのではなく、すべてを顔認証で行っている。

f:id:tamakino:20171225193214j:plain

▲Yitu社内の大型モニターには、全員の居場所がリアルタイムで表示される。顔認証で追跡をされているのだ。

 

数秒で20億人の顔を識別する人工知能

Yituは、監視カメラのクラウド化と人工知能による顔識別の技術を磨き、「ドラゴンフライアイ」という名前のシステムを開発、中国の各地公安が続々と導入中だ。Yituの共同創設者、朱龍は、南華早報の取材に応えた。「ドラゴンフライアイは、わずか数秒で20億人の顔を識別することができます。これは、3年前にはまったく考えられないことでした」。

ドラゴンフライアイは、すでに中国政府が保有する18億人の顔データベースに連結をし、一部の地域で稼働中だ。逃亡犯、前科のある者、テロリストなどの顔を見分け、瞬時にアラートを発令する。監視カメラは、街頭にも無数に設置されているが、駅、港、空港などが重要視され、このような重要拠点には解像度の高い監視カメラが設置され、認識率を向上させている。

f:id:tamakino:20171225193228j:plain

▲空港や駅などのゲートには、このような監視カメラが設置され、犯罪者やテロリストを識別すると、アラートが発せられる。このシステムは、中国の主要都市ですでに活用され、成果をあげている。

 

中国で導入が始まる顔認証監視システム

Yituによると、ドラゴンフライアイは、すでに20の県、直轄市レベルの公安、150の市町村レベルの公安で採用されているという。Yituのサイトには、堂々と採用事例が掲載されている。掲載されているのは、蘇州市、アモイ市、武漢市、寧波市。上海地下鉄で、今年の1月に試験運用をしたところ、3ヶ月間で567人の犯罪者を逮捕するという大きな成果をあげた。犯罪抑止、治安の向上にも大きな成果があるため、中国全土で採用されることになると、Yituは強気の見通しを立てている。

朱龍は言う。「顔認証が実用的かどうかなどということを議論するのはもはや時間の浪費です。2015年には、すでに顔識別で人工知能は人間を負かしているのです。しかも、この2年で、人工知能による顔識別は1000倍は精度が上がりました」。

f:id:tamakino:20171225193223j:plain

▲Yituの共同創設者、朱龍氏。2400万人の人口がある上海市で利用できる顔認証監視システムを開発することを目標に起業をした。

 

私たち外国人もデータベースに登録されている

中国人は公称、人口14億人だ。なぜ、データベースには18億人分が登録されているのか。中国を訪れる外国人もデータベースに登録されているからだ。国際的な問題になりそうな話だが、米国もつい最近まで、愛国者法により外国人のメールや電話は裁判所の事前許可なしに盗聴が可能な状態だった。テロから市民を守るため、どこの国も必死にセキュリティ対策を行っているのだ。もし、あなたが「上海、小籠包食べ放題2泊3日ツアー」に参加したとしても、おそらくこのドラゴンフライアイのシステムに顔が登録され、中国政府がその気になれば、あなたがどの辺りをうろついているかリアルタイムで知ることができる状態になるだろう。

100%の安全と100%のプライバシーを両立させることはできない。私たちは、いずれかを選択しなければならないのだ。あなたはどちらを選ぶだろうか。

tamakino.hatenablog.com