中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国のユニコーン企業(1):滴滴出行

時価総額が5億ドルから10億ドル以上あると見積もられているのに、上場をしない企業ーーユニコーン企業。投資家から熱い視線を浴びるユニコーン企業は、米国だけではなく中国にも数多く存在する。科技企業価値は、そのようなユニコーン企業を紹介している。今回は、ライドシェアの滴滴出行

 

旅行者はタクシーがまったく拾えない

中国の都市市民のほぼ全員が困っているのが、タクシーが拾えないこと。もともと、タクシーの台数が少なく、捕まえづらい状況はあったが、現在では、旅行者はまずタクシーを拾えない。どこに行くのでも、地下鉄とバスといった公共交通で移動することを前提にしなければならなくなった。

現地の人が、スマートフォン滴滴出行アプリを使って、タクシーを呼んだり、ライドシェアを利用しているため、タクシー自体はたくさん走っているものの、ほとんどすべてが乗車か迎車になっていて、手をあげても停まってはもらえない。レストランやホテルでタクシーを呼んでもらう時も、担当者は以前のように電話で呼ぶのはなく、スマホタブレットから滴滴出行を使って、タクシーを呼んでくれる。

 

周囲から反対されたタクシーサービスのアイディア

滴滴出行は、中国の大手IT企業BAT(百度、アリババ、テンセント)の3社から投資を受けている唯一のユニコーン企業で、今年5月に交通銀行などから55億ドル(約6100億円)の投資を受け、企業価値が500億ドル(約5兆6000億円)を突破したと公表した。

創業者の程維(てい・い)氏は、アリババでアリペイ関連の仕事をしていた。アリババの本社は杭州市にあったため、杭州から北京に出張する機会が多かった。そこで、タクシーが捕まらないということを何度も経験した。程維氏は、「スマホでタクシーが呼べるサービスをやったら受けるのではないか」と考えたが、周囲の誰もが反対をした。「タクシーの運転手がスマホを使いこなせるわけがない」と言うのだ。

当時の都市のタクシー運転手は、農村からの出稼ぎというのが相場だった。農村から都市に膨大な出稼ぎ人口が流れ込んでいた頃で、運転免許さえあれば、タクシーは高収入が手軽に得られる仕事のひとつだったのだ。その代わり、タクシーの”民度”は高いとは言えなかった。稼ぎを増やすために、早く目的地に着いて、次のお客を拾いたい。渋滞にぶつかると、反対車線を逆走する、歩道に乗り上げて爆走するということが珍しくなかった。多くの運転手が携帯電話は持っていたが、若者の間で流行し始めていたスマホに興味を示す運転手は稀だった。

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滴滴出行の創業者、程維氏。自身の「タクシーが捕まらない」という経験から、スマホでタクシーを呼べるサービスを始め、ライドシェアなどにも乗り出している。サービスを提供するだけでなく、当初からデータ分析をして、そのデータを販売することを考えていた。

 

タクシーのマッチング効率は劇的に改善

程維氏にとって、それは大きな問題には思えなかった。それでも社内の反対が強いため、アリババを退社して、起業をすることにした。2012年7月、北京市に北京小桔科技有限公司を設立し、9月に滴滴出行アプリを公開した。

スマホを見たこともない運転手のために、無料でスマホを配布し、社内でスマホ講習会を開きながらのスタートだった。

滴滴出行は、利用者運転手の双方から歓迎された。タクシーを捕まえるのに毎回苦労をする都市で、スマホで呼んで数分待っているだけでいい。タクシーのユーザー体験は大きく改善された。

タクシーの運転手もからも歓迎された。乗車賃の3割程度が滴滴出行の利用料として控除されてしまうが、賃走率が格段に上がったのだ。乗客を目的地で降ろした後、スマホの運転手専用アプリを開くと、近隣の需給ヒートマップが表示される。乗客が多いと予測されるのに、タクシーの台数が少ない場所が地図上に表示されるシステムだ。そのヒートマップを見て、近隣のホットスポットに向かえば、大体途中でスマホからの予約が入る。従来は、乗客を乗せている時間が2割か3割程度で、後は空車のまま車を走らせていたが、滴滴出行では6割から7割の時間を乗客を乗せて走ることができるようになった。乗車賃の3割を控除されても、手取り金額は大幅に増えた。

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滴滴出行が公開した朝の通勤時のヒートマップ。赤い部分が、移動したい人が多いのに、タクシーが捕まらない場所。運転手はこの赤い部分に向かえば、効率的に乗客を捕まえることができる。

 

ウーバーとの激しいシェア争い

2013年にはテンセントから1500万ドル(約16億8000万円)の投資を受け、アップルのアップストアから中国のベストアプリのひとつに選ばれた。2014年には、ユーザー数が1億人を突破、契約ドライバーも100万人を超え、米国の投資集団からの投資も受けるようになる。その中にはアップルの名前もある。そして、一般ドライバーが参加するウーバー型のライドシェアサービスも始め、2015年にはウーバーチャイナとの激しい戦いが始まる。

当初、ライドシェアに関する中国政府の態度は慎重なものだった。ライドシェアはあくまでもビジネスではなく、消費者の善意に基づく行動であるべきだとして、「ドライバーが利益を得てしまうような料金設定」を禁じた。ところが、滴滴出行のドライバーもウーバーチャイナのドライバーも、利益を得ようと思って、自分の車でタクシーサービスを行う。そこで、両者とも料金設定はドライバーの利益が出ないレベルの価格水準に抑え、同時にドライバーに対しては報奨金を出すことにした。つまり、報奨金がドライバーの儲けになる。それで、ライドシェアに参加するドライバーを集めようとした。

しかし、滴滴出行とウーバーチャイナの競争が激しくなると、クーポンやキャンペーンなどで、乗客に対する実質的な割引価格も競うように提供するようになった。滴滴出行もウーバーチャイナも、乗客にディスカウントを与え、ドライバーには報奨金を与え、収益はどんどん悪化をしていくはずだった。

 

ディスカウント合戦に敗れたウーバーチャイナ

ウーバーチャイナでは、この「儲からない構造」が大きな問題になった。ウーバーチャイナには、運営にさまざまな問題があったと言われるが、最も大きな問題は、この「儲からない構造」になってしまったことだった。これをウーバー本社が問題にしただけでなく、ウーバーチャイナの投資家たちが問題にした。おそらく「投資資金を引き上げたい」というような話も出たのだと思われる。ウーバー本社は、ウーバーチャイナはこれまでだと感じ、2016年8月に株式交換滴滴出行に売却をすることを決定した。ウーバーチャイナを持って事業を続けるより、滴滴出行の株を保有した方がいいという判断だった。

 

データを売り、そちらで収益を上げる滴滴

ウーバーチャイナが「儲からない構造」になってしまったのに、滴滴出行はなぜ「儲かる構造」を維持できたのだろうか。ここが、滴滴出行がウーバーの1枚上を行っていた部分だ。滴滴出行は、ライドシェア、タクシーサービスなどを提供することが本業だが、最初からこの提供サービスはデータを収集するためと割り切っていたようなところがある。

創業当初から、優秀なアナリストを集め、データ分析をし、その結果を販売する、あるいはさまざまな業種のコンサルティングをすることで、収入を得てきた。例えば、「金曜日の夜、北京の人は火鍋を食べにいくか、北京ダックを食べにいくか」という問いに滴滴出行は答えることができる。火鍋屋まで利用する人と、北京ダック店まで利用する人のデータを掘り出せばいいのだ。

しかも、単なる量的な比較だけではない。「どこから火鍋屋に向かったのか」もわかる。そのユーザーの乗車履歴を分析すれば、どこが自宅で、どこが職場であるかもわかるだろう。職場の場所と自宅の場所がわかれば、おおよその職業、おおよその年収までも推測ができる。どのような社会階層の人が、どのような行動を取るかが、滴滴出行はデータを分析することでわかるのだ。

もちろん、滴滴出行を利用せずに、地下鉄やバスで移動する人もたくさんいる。しかし、タクシーやライドシェアで移動する人は、公共交通で移動する人よりも、年収が高く、消費力も高いことが容易に想像されるので、滴滴出行は、あらゆる消費サービスに対して「どのような人がいつ利用しているか。どこに路面店を出すのが適切か」「まだ獲得できていない顧客群はどこに流れているか」など、さまざまな答えを出すことができるのだ。これが滴滴出行の収益を支えている。

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北京市の朝夕の通勤時の需要マップ。このようなデータ分析を元に、地下鉄やバスなどの公共交通の整備計画を立てることができる。

 

自動車は、データの収集IoT装置

滴滴出行は、最近では各都市政府の交通部関係者専用のプラットフォームを設立し、無償での情報提供を始めた。滴滴出行の利用データを公開することで、都市の交通問題を解決するために役立てもらおうという試みだ。

当初、行政は、ライドシェアサービスを認めてしまうと、タクシー業界が崩壊をする上に、規制にかからない質の悪いタクシーが氾濫し、消費者の権利が保護できないと、滴滴出行のようなサービスに否定的だったが、滴滴出行のこのような「データで利益を上げ、社会貢献をする」という姿勢が評価され、どの都市でも滴滴出行を新たな交通インフラとして認めるようになっている。

「タクシーが捕まらない」課題を解決したい。そこから滴滴出行はスタートしたが、それだけではユニコーン企業に成長することはできなかった。「自動車は都市移動のデータ収集装置」という冷静な見方があり、それを適切な業界に販売することで収益を上げ、社会貢献をすることで、都市の交通問題を解決したいという“自社のミッション”を持ち続けたことが、成長の鍵となっている。

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滴滴出行が分析したタクシー利用者とバス路線の比較。地図情報の武夷マンションでは、需要が多いのに、バス路線が途中までしかきていない。バス路線を延長することで、利用者の利便性は上がり、交通問題を解決することができる。

トミカ №051 トヨタ クラウン コンフォート タクシー (箱)

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鮮明になる中国産スマートフォン人気。後退するアップルとサムスン

調査研究機関「企智酷」は、スマートフォンのブランド力を調査した「2017中国携帯電話消費、ブランド力報告」を公開した。中国産スマホのブランド力が上昇し、相対的にアップルやサムスンのブランド力が低下していることが鮮明になった。

 

iPhoneはもはや革新ではなくなっている

中国でも、スマートフォンの買い替え期間は次第に長くなる傾向にある。特にiPhone場合、1年以内に買い替える人は少なく、3年以上の長期にわたって使う人の割合が高い。

最も大きな理由は、他のスマートフォンに比べて価格が高いので、そう簡単に買い替えるわけにいかないという理由もあるだろう。しかし、後のアンケート調査でわかるように、中国のユーザーはiPhoneに革新性をあまり感じていない。保守的で使いやすいスマホという認識で、それを長く使い続けるという感覚なのだと想像できる。

一方で、中国産スマホは、価格が安く、革新的だと感じている。そのため、新機能が出れば買い替えるという感覚がまだ残っているのだと思われる。

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▲以前の中国では1年程度でスマートフォンを買い換えるのが普通だったが、どのブランドでも買い替え期間が長くなっている。特にiPhoneは3年以上使っている人も増えてきている。

 

iPhoneは「使いやすいスマホ

Androidと比較をして、iPhoneのメリットを尋ねると、圧倒的に多いのが「iOS

の使いやすさ」という回答になる。次は性能で、意外にもデザイン、ブランド、革新性はさほど高くない。つまり、中国人ユーザーにとって、iPhoneは「使いやすく高性能。だから高くても仕方がない」という認識で、日本人の多くが感じている「デザイン、ブランド、革新性」という感覚とはかなり違っている。

一方で、iPhoneに比較をしてAndroidのメリットを尋ねると、「価格」「Andoroidの使いやすさ」がくる。

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iPhoneの魅力を尋ねると、iOSの使いすさ、性能が上位にくる。意外なことに革新性は高くない。

 

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Androidの魅力を尋ねると、1位にくるのはやはり価格。また、バッテリーも意外に高い。

 

信頼を勝ち取っているファーウェイ

現在使っている機種への満足度は、当然ながらアップルが最も高いが、中国産スマホも決して悪い数字ではない。中国産スマホの品質が急速に上がり、iPhoneに迫っていることがうかがわれる。一方で、サムスン発火事故などもあり、「高い割に中国産スマホと変わらない性能と機能」という認識が多く、満足度が頭抜けて低くなっている。

「次も今使っているのと同じブランドを選択するか」の回答では、アップルを抜いてファーウェイが首位になった。満足度が高く、価格も手頃なファーウェイが人気になっていることがわかる。

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▲利用者に聞いた満足度。アップルは依然として満足度が高いが、ファーウェイなども満足度を上げてきている。

 

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▲それぞれの機種を使っている人に、次も同じブランドを購入するかを尋ねた結果。ファーウェイの忠誠度が高くなっている。

 

iPhoneのネックはやはり価格

iPhone 8/8 Plusの魅力を、「iPhone 8/8 Plusの購入を考えている」人に尋ねると、ワイヤレス充電がいちばん人気となった。ただし、中国産スマホでQiのワイヤレス充電に対応していることは普通で、iPhoneだけが対応していない状態だった。そのため、「ようやくiPhoneもワイヤレス充電に対応してくれたから」という消極的な理由である可能性がある。

注目すべきなのは、「魅力はないが、買う」と答えている人が多いことで、まだまだアップルブランドに対する忠誠度は失われていないようだ。

同じく、購入を考えている人にiPhone Xの魅力を尋ねると、「ベゼルレス」が1位になる。これも、すでにシャオミーがMi MIXでベゼルレスデザインを実現しているため、中国人にはiPhoneがシャオミーの後追いをしている感覚がある。

日本人にとっては、Qi対応もベゼルレスデザインも「革新」に映るかもしれないが、中国人にとっては「今さら」「ようやく」の感覚なのだ。iPhoneの「革新」のイメージが完全になくなっている。

また、「iPhone Xを買わない」と答えた人に理由を聞いたところ、価格の問題が1位にくるのは当然としても、「ホームボタンがない」「前面の前髪のようなデザインがダサい」という答えも多かった。特に前髪を垂らしたデザインは、女性の「小劉海」という髪型にそっくりであり、からかいの対象になっている。

中国でのiPhoneの売上は下がり続け、中国産スマホの売上が伸びている。さらには、ファーウェイ、シャオミーはアジア圏での売上を伸ばしている。中国では、今年、スマホの業界地図が大きく変わるかもしれない。

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iPhone Xを購入すると考えている人に、決め手となった魅力を尋ねた結果。ワイヤレス充電が魅力だと答えた人が多かったが、中国産スマホの多くはQiに対応している。「魅力はないが買う」と答えている人の割合も多い。

 

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iPhone 8を購入すると考えている人に、決め手となった魅力を尋ねた結果。ベゼルレスデザインと答えた人が多かったが、これもシャオミーのMIXがすでに行っている。iPhoneに「革新的」のイメージはもはやなくなっている。

 

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iPhone Xを購入しないと答えた人に、その理由を尋ねた結果。やはり価格の問題が大きなネックになっていることがわかる。

 

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iPhone X上部の切り欠きのような部分は、女性の前髪を強調した髪型である「小劉海」と呼ばれ、中国のネット民の間では、iPhone Xをからかう時の常套句になっている。

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25歳以下は、自分の顔を晒す抵抗感を持たない。変わるプライバシー意識

中国のFacePartyというスマートフォンアプリが大人気だ。わずか3ヶ月で、10万ダウンロードを達成しただけでなく、1日1人平均3回から4回起動されている。ユーザーの80%は、20代前半の若者であると鉛筆道が報じた。

 

未知の人にも平気で自分の顔を見せる25歳以下

FacePartyは、知らないもの同士が出会えるSNS。ただし、ビデオチャットであり、顔出しが基本だ。知らない人に対して、自分の顔を見せるというのには、まだ抵抗がある人も多いと思うが、中国の20代前半の若者は、だから面白いと、FacePartyが大人気のアプリとなっている。

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▲FacePartyの画面。グループ同士でビデオチャットが楽しめるようにし、ゲームも数多く用意されている。バーで2人組の男性が、2人組の女性をナンパする感覚が再現されている。これが20代前半の若者に受けた。

 

顔を隠す20代後半、顔を出す20代前半

FacePartyを開発した安明威(あん・めいい)氏は、IT企業「百度」で「百度貼吧」(掲示板)の動画掲示板の運営責任者をしていた。

その時に、同じ若者でも、20代前半と20代後半では、感覚がまったく違っていたことに気づいた。20代後半の若者は、自分の動画を投稿する時に、被り物をしたり、動画を加工して、自分の顔を隠してしまう。しかし、20代前半以下の若者は、顔を隠そうとせず、そのまま動画に登場することを好んだのだ。

安明威氏は、新しい感覚の世代が登場してきたことを感じ、百度内で動画SNS「Sala」の開発プロジェクトを始めた。知らない人と、テレビ電話でつながるというSNSだった。

 

いきなり顔を見て、仲良くなってしまうビデオSNS

ところが、このプロジェクトは順風満帆というわけにはいかなかった。なぜなら、見知らぬ人と出会えるSNSとしては、すでに「陌陌」「探探」などが存在し、ライバルが多すぎるという指摘を受けたのだ。しかし、安明威氏にしてみれば、Salaはそのような従来のSNSとはまったく違う。Salaは、知らないもの同士がいきなりテレビ電話で結ばれ会話をする。「陌陌」「探探」は、画像と文字が基本で、音声やテレビ電話で話すようになるまでには長い時間が必要になる。20代後半以上は、このように段階を踏みながら親しくなっていくSNSを好むかもしれないが、安明威氏の観察によれば、20代前半にとっては、そのような段階はうっとおしいだけで、いきなり相手の顔を見て、感覚で友人になれるかどうかを判断し、だめだと思ったら、その場で通話を切ってしまい、いいとなればすぐにでも会いにいくというスピード感が必要だった。

しかし、その違いが、社内ではなかなか理解してもらえなかった。すでに米国では見知らぬ人同士がいきなりテレビ電話でつながるMonkeyというアプリがリリースされ、わずか2ヶ月でAppStoreのSNSランキングの5位に入っていた。

のんびりしてはいられないと感じた安明威氏は、百度を辞職して、起業してSalaの開発を続けることにした。今年の3月に辞職をして、スタートアップ「FaceParty」を立ち上げた時に、安明威氏に賛同した百度のエンジニア4人が付いてきた。

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▲米国でもビデオチャットアプリMonkeyが人気になっている。こちらは1対1のビデオチャットのみ対応。文化の違いによるものだと思われる。

 

グループ同士でビデオチャットするナンパ感覚が受けた

FacePartyは、ただ見知らぬ同士をテレビ電話で繋ぐのではなく、中国人に受ける工夫をしていた。それまでのMonkeyなどは、1対1の会話をするアプリだが、中国人はそれでは話が盛り上がらないので、グループ同士でテレビ電話が繋がるようにした。例えば、ある男性が、離れたところにいる友人を誘って、2人のグループを作り、女性2人組のグループを検索する。これで繋がると、4人でテレビ電話で話ができるようにした。男性2人でバーに出かけて行き、女性2人組に声をかける。この感覚で、繋がれるようにした。

さらに、今年9月には、繋がっている同士で、人狼ゲームが楽しめるようにした。参加者の一人が密かに人狼に指定され、残りのプレイヤーは質問をしながら、誰が人狼であるかを推理していくゲームだ。

 

ユーザー数は10万人でも、毎日3回以上は起動される

こうした工夫で、リリースわずか3ヶ月で、10万人のユーザーを獲得した。ユーザー数はさほど多いとは言えないが、驚くのはアプリの利用率だ。1人平均1日で3回から4回はFacePartyを起動し、1回あたりの使用時間は30分から40分にもなる。ユーザーの80%は20代前半の若者で、男女比は1.3:1だという。

今後は、FacePartyの中で遊ぶゲームのアイテムの有料販売、有料VIP会員などの制度を設け、また有料の心理カウンセラー、語学レッスンなども追加し、マネタイズをし、投資を呼び込みたいとしている。

 

中国のスタートアップは3年でツノを出す。中国IT経済の強さを支えるユニコーン企業

コンサルティング企業「ボストンコンサルティンググループ」(BCG)は、中国アリリサーチ、百度発展研究センター、滴滴政策研究院と共同して、『中国インターネット経済白書:中国インターネットの特色を読み解く』を公開した。目を引くのは、中国のユニコーン企業の多さと、創業からユニコーン化するまでのスピード感だ。

 

潜在力を残している世界最大のネット大国、中国

『中国インターネット経済白書:中国インターネットの特色を読み解く』は、主要国のインターネット経済を分析した報告書。各国のインターネット経済データが比較され、eGDP(GDP中のインターネット関連生産額の割合)なども比較されている。

中国のインターネット経済の特色は、何と言ってもインターネット人口の多さだ。すでに7.1億人がインターネットを利用し、これは米国の2倍以上になる。しかも、これは中国の総人口の半数程度であり、中国はまだまだインターネット経済を成長させる潜在力を秘めている。

これはネット消費額からも裏付けられる。ネット消費額は米国に迫る勢いだが、ネット人口を考え、ネット利用者一人あたりの消費額を計算してみると、米国は約3900ドル、中国は約1360ドルと1/3以下になる。つまり、ネット経済が成熟をしている米国に比べて、中国はネット人口からも一人当たりの消費額からも、まだまだ成長空間がたっぷりと残されていることがわかる。

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▲中国は圧倒的にネット人口が多い。しかし、それでも人口の半分程度でしかなく、今後まだまだ成長できる空間を残している。

 

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▲中国のネット消費額は米国に迫る勢い。しかし、1人当たりの消費額にすると米国の1/3程度になってしまう。1人当たりの消費額でも成長空間が残されている。中国のネット企業が海外よりも国内市場開拓に熱心なのも当然だ。

 

ネット経済の依存度が高い韓国と中国

しかし、eGDPを比較すると、別の見方も出てくる。eGDPとはGDP(国民総生産)中のネット総生産額の割合だ。高ければ高いほどネット依存の経済であり、低ければ低いほど既存産業の存在感があるということになる。

このeGDPを見ると、米国は5.4%と、ネット経済の規模も大きいが、非ネット経済の規模も大きく、健在な経済社会構成になっていることがわかる。

しかし、アジア圏の韓国、中国はeGDPが高く、ネット経済への依存度が高い。特に、韓国はネット経済の成長率が高くないのに、eGDPが高いということは、既存産業の縮少が起こっているということであり、注意しておく必要がある。

一人あたりのスマートフォンアプリ装着率(一人平均いくつのアプリを入れているか)も、世界平均に比べて、中国、韓国、日本が高い。アジア各国は、完全にネット経済が成長の中心軸になっている。

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▲eGDPはGDP中のネット由来の総生産額の割合。数値が高いほどネット経済が進んでいることになる。アジア各国はいずれもeGDPが高い。しかし、逆に言えば、既存産業が縮小していることにもなる。

 

世界ネット企業ランキングは、米国と中国の企業ばかり

アジア圏で、ネット経済が著しく成長しているのは中国だ。それは、ネット企業の世界ランキングを見てもわかる(アップルやマイクロソフトなどのような企業は、ネットのみの企業ではないので除外されている)。

圧倒的に強いのは、グーグル、アマゾン、フェイスブックといった米国のネット企業だが、アリババとテンセントが4位と5位に食い込み始めた。さらに、百度、京都、網易も10位以内にランクインしている。

しかし、このような中国のネット企業の多くは、グローバル化してなく、市場のほとんどは中国国内だ。そのため、中国のネット人口の成長に合わせて、今後も成長はしていくだろうが、その成長率は緩やかなものになると想像できる。中国のネット企業が、今後も大きく成長するには、海外展開がどれだけ成功するかにかかっている。グーグル、アマゾン、フェイスブックの上位3社はグローバル展開をしており、これが上位3社と、それ以下を分けている鍵になっている。

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▲世界のネット企業時価総額ランキング。グーグル、アマゾン、フェイスブックに次いで、アリババ、テンセントという中国企業ランクインしている。10位まではいずれも米国企業か中国企業だ。

 

勝負が早い中国のスタートアップ企業

中国のネット経済の強さのもうひとつの秘密がユニコーン企業だ。ユニコーン企業は、企業価値が10億ドル以上になりながら、まだ上場していない企業。つまりは、急成長をしたスタートアップのことだ。このようなユニコーン企業に投資をして、上場をすれば、莫大なリターンが得られることから、投資家たちは有望なユニコーン企業を血眼で探している。

ユニコーン企業と言えば、米国、特にシリコンバレー地区に集中しているイメージだが、実は中国にも数多く存在している。企業価値の合計で比較すると、米国とほぼ互角のところまできている。

特に驚かされるのが、スタートアップがユニコーン企業に成長するまでにかかる時間だ。米国では、ユニコーン企業に成長するまでに平均7年かかっているが、中国の場合は平均4年。46%の企業が、2年以内にユニコーン化している。これは驚くべきスピードで、これが中国のネット経済の力強さの秘密になっている。

日本では、自転車ライドシェアや無人コンビニといった中国スタートアップの失敗例ばかりが報道され、あたかも社会が混乱しているかのように感じている人もいるかもしれないが、要は中国のスタートアップは勝負が早いのだ。わずか2年で、ユニコーン化か倒産かがはっきりしてしまう。このスピード感が、中国のネット経済を成長させている。

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ユニコーン企業の企業数。圧倒的に米国が多い。

 

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▲しかし、ユニコーン企業の企業価値の合計で見ると、中国は米国に迫る勢いになる。中国のスタートアップが急成長していることがわかる。

 

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▲驚くのはスタートアップがユニコーン化するまでの年数。米国は平均7年だが、中国は平均4年。しかも2年目にユニコーン化する企業も多い。このスピード感が中国のネット経済の急成長を支えている。

 

 

もう現金と財布はいらない。14%の中国人が現金を持たずに外出

中国の都市部では、スマホ決済が普及をし、「現金を持ち歩かない人が増えている」とよく言われる。実際のところはどうなのか。中国の調査会社イプソスは、スマホ決済に関する世論調査結果を公表した。それによると、すでに14%の消費者が現金を持ち歩かなくなっているという結果が明らかになった。

 

すでに中国人の40%が、現金決済をやめている

中国の都市部では、「スターバックス以外のすべての店が、スマホ決済に対応している」と言われる。店舗が、アリペイやWeChatペイに対応するには、スマホを購入して、ユーザー登録をするだけでよく、審査は不要で、リーダーやレジなどの機器を購入する必要もない。その手軽さにより、ほとんどの店舗が対応するようになり、それが利便性を向上させ、スマホ決済を利用する消費者が増えるという好循環が生まれている。

そのため、現金を持ち歩かない人が増えている。よく聞くのは、「スマホを紛失したり、故障した場合のことを考えて、市内から自宅までのタクシー代50元程度をカバンに入れておき、財布は持たない」というパターンだ。

そういう話はよく耳にするし、現実にそうしている人もよく見かける。しかし、これまではっきりとした統計データはあまりなかった。それが、今回のイプソスの調査結果で、はっきりと数字に表れたことになる。

消費者の14%はまったく現金を持たず、100元以下のお金だけを持ち歩くという人が26%。つまり、合計40%の消費者が、現金を主要な決済手段とは考えず、スマホ決済が使えなくなった時のバックアップ手段と考えていることになる。

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30歳以下はスマホ決済世代

毎日所持する平均金額を年齢別にみると、80年代生まれ(40歳以下)から所持金額が減ることがわかる。90年代生まれ(30歳以下)では、平均で172元しか持ち歩かない。

また、男性と女性を比較すると、女性の方が所持金額が少なかった。女性は買い物の荷物を持っていることが多く、財布からお金を取り出して支払いをし、お釣りを再び財布に入れるという動作が煩わしく感じるのだと考えられる。

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▲日常の外出時の所持金額は、80年代生まれから大きく減少する。60年代生まれの500元は9000円ほどなので、物価の差を考えると、現金決済を中心にしていると思われる。一方で、90年代生まれの172元は3000円程度で、日常支出は賄えない。スマホ決済を主として、現金は万が一の場合に帰宅するタクシー代と考えていると想像できる。

 

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▲所持金額は女性の方が少ない。買い物の荷物を持っていることが多い女性は、財布からお金を出す動作を煩わしく感じる人が多い。

 

「偽札が多いからスマホ決済」は都市伝説。理由は単純に利便性

ここまで現金を持ち歩かなくなる理由として、よく「中国は偽札が多いから」ということを言う人がいるが、これは都市伝説だ。確かに2008年の北京五輪前後まで、中国では偽の100元札が大量に出回っていたと言われ、買い物に100元札を使うと、1枚1枚チェッカーで検査をするのが当たり前だった。

しかし、北京五輪前後から、このような偽札チェックはほとんど行われなくなり、偽札問題を口にする人もいなくなった。それまで中国の紙幣は、ボロボロで触るのをためらうほど汚れていたものが多かったが、これもやはり北京五輪を境に綺麗になり、紙幣に偽造防止のホログラムも入るようになった。北京五輪に合わせて、偽造不可能な新型紙幣を大量に投入したのだろう。偽札問題は、北京五輪を境にほぼ解決したと見ていいはずだ。

スマホ決済が急速に普及をするのは、2015年のことなので、この頃には、中国人でさえ偽札問題は忘れていたはずだ。

では、なぜスマホ決済が急速に普及をしたのか。それは「どこでも使える」という便利な状態が生まれたからに他ならない。現金と同じようにどこでも使え、現金よりもはるかに便利なのだから、誰だって便利な決済手段を使うという単純な話なのだ。

日本で、現金決済が減らず、電子決済の普及が遅れているのは、店に入る前に「この電子決済は使えるかどうか」を確かめなければならないという不便さがあるからだ。そのため、事前に利用できるかどうかをあまり考えずに使えるSuica、大手コンビニの電子マネーの普及率は伸び続けている。

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▲2015年に改定された100元札。あちこちにホログラムが多用され、偽造はほぼ不可能になっている。同じレベルのホログラムを手に入れ偽札を作ってもコストが100元近くかかってしまうからだ。現在の中国では偽札問題はほぼ解決されている。

 

ついに猫までシェアリング。シェア猫アプリが大人気

中国でペットと言えば、圧倒的に犬が人気だったが、ここへ来て、猫好きの人が目立つようになった。自由で気ままな猫と遊ぶことによって、癒されるのだという。町猫と遊ぶことができるシェア猫アプリがいくつも登場して話題になっている。

 

 

意外に大切にされている中国の猫たち

中国の都市は、意外に猫が多い。繁華街にはさすがにいないが、静かな住宅地、公園、古い町並みなどにはけっこう町猫がいる。近所の人が餌をやっているのだと思われ、丸々と太って幸せそうな猫も多い。

熾烈な競争社会である中国でも、最近は疲れる人が多いのか、そういう町猫を探して歩く人が増えているという。猫と遊ぶことは「吸猫」と呼ばれ、「吸う」には「雰囲気を楽しむ」というような意味がある。

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▲アプリ利用者が投稿して、猛烈に拡散した猫の写真。

 

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▲中国でも、猫写真は大人気で、SNSにはいくつもの猫写真を交換するグループがある。

 

現在地周辺の町猫が検索できる「大衆吸猫」アプリ

このような猫好きの人のために、町猫探しのスマートフォンアプリがいくつも登場している。「大衆吸猫」アプリでは、検索をすると、現在地周辺の町猫がリストされ、地図を頼りに猫を探すことができる。SNS機能も備わっており、猫と遊んで写真を撮って、投稿する機能もある。

さらに一歩進んで、日本の地域猫のような考え方を取り入れたアプリも登場して、「これはシェアリング猫だ!」と話題になっている。

現在、ベータ版の公開が始まったアプリ「吸猫」では、利用するのに299元(約5000円)のデポジットを支払う必要がある。この資金を元に、猫のエサを購入し、登録されている猫を管理している人に送ろうという試みだ。

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▲猫検索アプリ「大衆吸猫」。試験のプレッシャー、不眠症、失恋などに疲れた時に、猫に癒してもらうというコンセプトだ。

 

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▲「大衆吸猫」の検索結果。現在地周辺の町猫、飼い猫が検索される。それぞれ評価やコメントをつけることができる。




日本の地域猫と似た試みのシェアリング猫

ペットの飼育については、省、市などによって規定が異なるが、犬に関しては厳しい規則が定められているものの、猫に関しては規定されていないことが多い。そのため、自宅で飼う場合はともかく、なんとなく居着いてしまった町猫に関しては、誰かが餌を与えて、面倒を見ている。しかし、繁殖して数が増えすぎたり、面倒を見ている人が高齢になり世話ができなくなるなどの理由で、地域で問題化することも増え始めている。

問題点は、日本の野良猫と同じで、餌代、去勢費用を誰が負担するのかという問題と、管理者が明確でないために、人の花壇を荒らすなどの問題を起こした時に、対応のしようがないということだ。市によっては、市民からの通報で、野良猫を保護し、殺処分せざるを得ない地域も出てきている。

シェアリング猫は、このような猫を保護しようという試みだ。アプリに猫を登録する人が責任者となり、猫の管理を行う。一方で、アプリ経由で集められたデポジットや寄付などの資金によって購入された餌などを受け取ることができる。

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▲シェアリング猫アプリ「吸猫」の検索画面。地図上でどこにシェアリング猫がいるかが表示される。もちろん、その場所に行ったからといって、すぐに猫を見つけられるかどうかはわからない。

 

中国でも増え続ける猫好き

このようなシェアリング猫の試みが、軌道に乗るかどうかは難しいところだが、利用者によると、アプリに投稿される猫の写真を見ていると、ついつい寄付をしてしまいたくなるということなので、意外に簡単に軌道に乗り、地域猫の新しいモデルとなるかもしれない。

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▲「大衆吸猫」のコメント欄。「スーパースーパー萌え萌え!帰宅時に出会うと、疲れが吹っ飛びます。吸吸吸吸吸吸!近くの犬のように通勤する人にうってつけ。でも、猫が休んでいるのを邪魔しないように気をつけて」。「何度遊んでも遊びきれない。めちゃ萌える!猫と遊ぶ順番を待っていた時に、今の彼女と知り合ったよ。ありがとう猫大王!」。

 

ATMで現金化が可能に。白熱するスマホ決済vs銀行

甘粛省蘭州市都市銀行である蘭州銀行が、アリペイ、WeChatペイなどの残高を銀行ATMですぐに現金化できるサービスを始めたと品玩が報じた。銀行がこのような現金化サービスを提供するのは初めてのことだという。

 

スマホ決済の残高を即現金化できるサービス

甘粛省蘭州市都市銀行、蘭州銀行は、アリペイ、WeChatペイの残高を銀行ATMで現金化できるサービスを始めたと発表した。蘭州銀行の銀行口座も不要で、もちろん銀行カードも必要ない。現金化したい金額を入力後、ATMに表示されるQRコードを読み込んで、アリペイまたはWeChatペイから送金を行うと、その場で現金が出てくる。

ただし、1回5000元(約8万3000円)まで、1日2万元(約33万5000円)までという制限があり、手数料に0.3%が必要となる。

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▲ATMで、スマホ決済の残高を現金化する手順を紹介した蘭州銀行の説明。銀行口座や銀行カードが介在せず、スマホ決済口座さえあれば、現金化ができる。

 

現金化が面倒だったスマホ決済

従来、アリペイなどの残高を現金化するには、自分の銀行口座に送金をして、銀行カードなどを使ってATMから現金を引き出すということが必要だった。銀行口座に送金する手数料も0.3%で、ATMに利用手数料はほとんどの銀行で無料になっている。今回の蘭州銀行のサービスは、自分の銀行口座を経由させる手間がなくなるものだ。

また、銀行口座への送金は、銀行の営業時間内のみで、営業時間内であっても2時間ほどはかかる。それが即時現金化できることになる。

 

ライバルだったスマホ決済と銀行が手を結んだ

このサービスは、「少し便利になった程度」だと多くの消費者から受け止められているが、金融関係者にとっては大きなニュースになっている。なぜなら、現金を扱う銀行と、スマホ決済のアリペイ、WeChatペイは、強烈なライバル関係にある。それが、スマホ決済を促進するようなサービスを銀行が始めた。反スマホ決済の銀行関係者からすれば、蘭州銀行は裏切り者に見えるかもしれないし、将来を見越している銀行関係者にとっては時代を先取りしたように見えるだろう。

今後、銀行とスマホ決済は、複雑に絡み合いながら、中国の金融業界を激変させていくことになる。

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▲思い切った施策を打った蘭州銀行。銀行団から見れば、”裏切り”にも見えるこの決断が、スマホ決済と銀行決済の将来を大きく変えてしまうかもしれない。

 

企業間では、銀行間決済が主流

スマホ決済は、個人消費の分野では主役の決済手段になっているが、企業間取引ではまだ現金(銀行決済)が主役だ。

例えば、多くのホワイトカラーが、もはや給料をアリペイなどで支払ってもらいたいと思っている。現状は、銀行振込であり、その残高をわざわざスマホ決済口座に移して使っている。直接、スマホ決済口座に給料を振り込んでくれた方がありがたい。

しかし、支払う企業の側から見ると、大きな問題がある。地方や業種によって異なるが、雇用者への給与の一定割合は”現金”で支払わなければならないことになっているからだ。

スマホ決済の残高は、現金ではなく、あくまでもポイントにすぎない。そのため、スマホ決済で給与支払いをすると、それは現物給与ということになり、中国では現物給与は「みなし販売」となり、売上を立てなければならなくなる。社員に支払うべき現金給与によって、現物を販売したということになるのだ。税務処理上、さまざまな問題が発生する。

また、企業間での取引も、銀行経由、つまり現金が主流だ。技術的にはスマホ決済にすることもできるが、その場合、税務上の問題、監督官庁の規制などの問題などがあり、簡単にスマホ決済に変えることはできない。

 

スマホ決済と銀行が手を結べば、通貨革命が起こる

スマホ決済が普及をしたといっても、それはあくまでも個人消費の分野での話であって、企業間取引にはほとんど使われていない。もし、企業までスマホ決済を利用するようになれば、アリペイ、WeChatペイは、“第2の通貨”になることができるだろう。そうなると、スマホ決済を軸にしたビジネスがもう一度、爆発的に進化することができるようになる。

スマホ決済が“第2の通貨”になるためには、運営会社のアリババやテンセント単独では無理で、どうしても銀行の協力が必要になる。今回の蘭州銀行のサービスは、このスマホ決済と銀行の提携の第一歩になる可能性があるのだ。

tamakino.hatenablog.com

 

スマホ決済と銀行決済の熾烈なライバル関係

スマホ決済運営企業と銀行をバックにした銀聯は、これまでライバルとして激しく火花を散らしてきたし、現在でもその関係は変わっていない。

個人信用度の問題からクレジットカードが普及しなかった中国で、デビットカード銀聯カードは、電子決済の主役になった。訪日中国人の“爆買い”の決済手段はほぼ全員が銀聯カードだった。

ところが、元々はアリババが運営するECサイトタオバオ」のポイントにすぎなかったアリペイが、スマホ決済を始めると、その導入のしやすさから、中国国内の電子決済の主役となり、銀聯カードは急速にシェアを落としてしまった。

tamakino.hatenablog.com

 

スマホQRコード決済の標準化で主導権を握りたい銀聯

すると、銀聯QRコード方式のスマホ決済に参入。それだけでなく、銀聯が主導をして、QRコード決済の国際規格の標準化を行った。銀聯スマホ決済は、当然この標準規格に準拠をしているが、アリペイ、WeChatペイは修正をしなければ国際規格に準拠できない。海外の加盟店は、当然ながら標準規格に準拠したスマホ決済=銀聯を選ぶことになる。

つまり、銀聯は、中国外でのQRコードスマホ決済でシェアを握ることで、反撃に出ようとしているのだ。

 

スマホ決済の次の顔認証決済に踏み込むアリババ

すると、今度は、アリババは、蘭州銀行のような地方の都市銀行との提携を進め、同時に、QRコードの次の技術として、顔認証決済(アリババはSmile to Pay、スマイル決済と呼んでいる)を強力に推し進めている。まるで、銀聯という秦帝国を倒すために、項羽と劉邦が怒涛の進撃をしているような有様なのだ。

この銀聯とアリババ、テンセントの競争は、今後も続いていくことになる。中国の電子決済の主役を誰が握るのか、まだまだわからない。

 

※注記

その後の報道によると、政府からの命令で、この現金化サービスは一時停止になった。「非銀行決済機関ネット決済業務管理法」第9条の規定で、ネット決済機関は、外貨両替や現金化サービスを行ってはいけないことになっている。スマホ決済を利用して、資産を違法に海外移転されることを防止する目的の条項だ。アリペイは、この規定に触れないように、蘭州銀行と提携して、現金化を銀行に委託したわけだが、当局の見解は違っていたようだ。現在、調査中で、サービスの再開の見込みはたっていない。