中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

海老料理を出す本屋さん。北京のITエンジニアの間で大人気に

北京で、「書香門」(シューシャンメン)という書店が話題になっている。会員制書店で、テーブルやソファがあり、店内では本を読み放題。気に入った本は買うことができる。さらに、コーヒーなどの飲み物も販売されているだけでなく、本格的な海老料理やアワビ料理まで提供される。現在、11店舗を展開し、年商は1億元(約16億4000万円)を超えている。北京のITエンジニアの間で愛好者が増えていると職業餐飲網が報じた。

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▲書香門の店内。店内は広く、ゆったりとしている。ITエンジニア御用達の店になっているが、MacBookを開いて仕事をするような無粋な人はいない。みな紙の本を楽しみ、本について語り合うことを楽しんでいる。

 

本格料理を出す書店というコンセプトで成功した書香門

書店で、立ち読みを自由にさせるところが増え始めている。テーブルやソファを用意して、立ち読みを推奨する書店もある。カフェが併設されていて、コーヒーを飲みながら読める書店もある。しかし、海老料理やアワビ料理といった本格的な食事まで提供する書店はそうは多くない。黒竜江省ハルビン市で11店舗を展開していた書香門は、この手法で年商1億元を達成した。

その書香門が北京に初めての出店をした。場所は北京市の北東部にある798芸術区。1950年代に東ドイツの技術支援を受けて設立された機関車などの製造工場(第798工場)だったが、改革解放以後、廃工場となっていた。家賃が格安なことから現代芸術の芸術家たちが住み始めた。この場所から、世界的に有名な現代芸術家が何人も登場して、798芸術区は世界的にも有名な地域となった。現在は、観光地化してしまったと嘆く人もいるが、画廊や展示ホール、カフェ、雑貨店が軒を連ねる芸術の街になっている。北京でも、感度の高い人が集まる瀟洒な場所だ。

この立地に、書香門が出店をすると、早速、北京のITエンジニアたちが熱心なファンとなり、話題になっている。

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▲北京にある798芸術区。廃工場の建築をそのまま利用した画廊、美術館が人気を呼んでいる。観光地になってしまったと嘆く人もいるが、北京でも感度の高い人々が集まる地域になっている。

 

会員カードの最低チャージ金額は3万円から

書香門は、どの店も1000平米以上と、店内は広い。そこにテーブルが用意され、壁際には書架があり、本が並んでいる。本を購入することもできるが、基本は、訪れて居心地のいい場所で、本を読む。会員制で、会員カードに現金をチャージし、店内ではこのカードで、買取の本や食事、コーヒーなどの支払いをする。

ただし、このカードへのチャージの最低金額は2000元(約3万2000円)と敷居は高い。3ヶ月経てば、現金に払い戻すことができるようになるが、それをする会員はほとんどいない。

これで、すでに1万5000人の会員がいる。全員のカードに最低2000元はチャージされるのだから、これだけでも3000万元(約5億円)だ。

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▲店内に併設されているカフェ。飲み物は9.9元均一。160円ほどで、周囲のカフェと比べても1/3から1/4程度の値段。

 

本を読まない中国人に、本を読んでもらいたい

書香門の成り立ちは、当時、黒竜江省の衛星テレビ局に勤めていた創業者の田久岭(でん・きゅうれい)氏が、2013年に『本を読まない中国人』というエッセイを読んで、衝撃を受けたことに始まる。

「これはなんとかしなければいけない」と感じた田久岭氏は、2013年8月に、テレビ局を辞職して、書香門を設立した。

当時は、現在の業態とは違っていて、会員制の読書サロンだった。本を読む習慣を少しでも広げようとした。当初は友人などが参加して、経営状態も悪くなかったが、半年もすると、最初の熱が冷め、次第に会員が減り、経営状態は悪化していった。

 

軽食では中国人の胃袋は満足しない

田久岭氏は当時を振り返る。「あの頃は、最初の読書交流会が午前9時半から始まり、10時半に終わっていました。この時間に参加する人の多くが、朝食を食べずに交流会に参加していたのです。みな、お腹が空いて、読書どころではなかったわけです」。

そこで、田久岭氏は簡単につくれる軽食を提供しようと、さまざまなレストランを訪れて、メニューのアイディアを探った。「しかし、簡単に作れる軽食というのは、サンドイッチやパンなど、中国人の胃袋を満足させるようなものではなかったのです」。

そこで、田久岭氏は、まったく大胆な発想をする。読書よりも食欲が重大事であるならば、読書スペースよりもキッチンスペースを大きくすべきだと考えた。本屋の中にキッチンを作るのではなく、レストランに本を置けばいい。胃袋を満足させれば、落ち着いて本が読めるはずだと考えた。

 

市価700元の海老料理が99元。本当の味を格安で提供

田久岭氏は、どうせ料理を提供するなら、最高の料理を提供したいと考えた。海老、アワビ、フカヒレなどの高級食材をふんだんに使った料理を提供したい。しかし、本が好きな人というのは学生や若者が多く、そのような高級料理を注文できるほどお金を持っていない。

そこで考えたのが会員制だった。会員になってもらい、2000元をまずチャージしてもらい、それを飲食に使ってもらう。先にお金をもらうので、その資金を投資などに回し、配当金や利子で利益をあげる。この収入があるために、会員には料理を格安で提供ができる。

市内では、700元(約1万1500円)ほどはする海老料理は99元(約1600円)で提供する。人気のアワビフカヒレ牛スジ麺は19.9元(約320円)、コーヒーなどの飲み物はすべて9.9元(約160円)という格安で提供している。

「格安で高級料理が食べられて、何時間でも本を読んで過ごすことができる」と感度の高い人たちの間で話題になり、2000元チャージという高い敷居があるにもかかわらず、人気の書店となった。

食事を提供するようになって、書香門の経営は好転し、1年で利益が6倍に増え、現在でも利益率15%台を維持している。この利益を元に、店舗を増やし、読書習慣を中国人に根付かそうとしている。

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▲書香門で提供される海老料理。本格的な高級料理で、普通のレストランであれば700元ほどする料理が99元で提供されている。

 

デジタル世代に新鮮な「紙の本」体験

北京798店が開店すると、早速感度の高いITエンジニアたちが押し寄せた。しかし、エンジニアにありがちな、テーブルでコーヒーを飲みながら、MacBookを開くという人は皆無だ。普段は、スマホとPCが手放せない彼らも、書香門に来た時だけは、紙の本を読む。

田久岭氏は言う。「私たちの商品は、本でも料理でもありません。会員カードです。その会員カードを使って、書香門で過ごす体験が私たちの本当の商品なのです。海老料理を提供する書店というのはまったく奇妙でもなんでもありません」。

デジタル世代にとっては、書香門での体験は新鮮で、心地がいいようだ。田久岭氏は、デジタル世代の多い地域を中心に、さらなる出店計画を進めている。

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▲オーガニックなインテリアの店内で、じっくりと紙の本を読む。デジタル世代には新鮮な体験で、ITエンジニアの間で愛好者が増えている。

家カフェ

家カフェ

 

 

 

 

銀聯カードの時代は終わるのか。スマホ決済の最終決戦が始まった

アリペイ、WeChatペイの登場で、あっという間に中国の電子決済の主流になったQRコード方式。デビットカードで一時は主役になった銀聯カードは急速にシェアを落としているが、ここにきて、銀聯QRコード方式のスマホ決済に対応して巻き返しを狙っている。スマホ決済の最終決戦の行方はどうなるのか。界面が報じた。

 

今やシェア1%になってしまった、かつての主役「銀聯

銀聯は、中国の40数行の銀行が連合したデビットカードで、クレジットカードの普及が進まなかった中国で、電子決済の主役になった。いわゆる海外で“爆買い”をする中国人旅行者の決済手段は銀聯カードで、日本の商店も続々と銀聯に対応するほどだった。

しかし、現在、中国国内の銀聯の電子決済シェアは1%程度に急落してしまい、海外でもスマホ決済であるアリペイ、WeChatペイの対応が進むにつれて、シェアを爆下げ中だ。以前の輝きはまったく失われている。

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▲すでに懐かしい爆買いの風景。日本製品は優秀、日本製品は安い、日本製品は美しい。来日した中国人観光客は大量の日本製品を購入していた。その時の決済の主役は銀聯カードだった。しかし、銀聯はもはや主役の座から転落し、通行人エキストラ程度の影響力しかなくなっている。

 

NFCQRコードか。ApplePayか独自アプリか。迷走する銀聯

銀聯は、完全に迷走をしている。一昨年にはNFCに対応し、非接触カードを配布し始め、さらにはApplePayにも対応。NFC技術を使って、次世代カード、スマホ決済に移行するのかと思えば、昨年末にはアリペイ、WeChatペイと同じQRコード方式を発表した。

しかし、すでにアリペイとWeChatペイで、スマホ決済市場の93%を握られているという中国で、銀聯はシェアを伸ばすことはできないままでいる。

今年、3月末になって、銀聯の時文朝(じ・ぶんちょう)総裁は、43%としていた2017年の成長目標を20%に下方修正すると発表した。

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▲以前は、日本でも見かけた銀聯ユニオンペイのロゴ。最近は、あまり見かけなくなっていることにお気づきだろうか。

 

不発に終わった独自キャンペーン、ApplePayキャンペーン

その後も、銀聯の施策はパッとしない。6月8日の児童節(子どもの日)を中心にした1週間、「68活動」キャンペーンを実施した。銀聯カードを使って提携店舗で決済をすると、商品が68%の価格で購入できる(つまり32%オフ)、新たに銀聯に加入すると16元(約260円)のキャッシュバックなど、今ひとつインパクトに欠けるキャンペーンだった。

銀聯では、この期間中に、新規加入者が通常の402%になり、決済数は通常の308%になったと発表した。多くのメディアから「比率ではなく、実数を公開してほしい」と注文がついたが、銀聯は未だに具体的な数字を公表していない。想像に難くないのは、加入者や決済数の元の数字が、公開できないほど惨めな数字になっているのではないかということだ。

さらに、銀聯が提携している7月のアップルのApplePay夏の大キャンペーンに期待をしたが、こちらも多くのメディアが完全な不発に終わったと見ている。

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最初にQRコード方式を研究したのは銀聯だった

銀聯の凋落が、アリペイの爆発的な躍進にあることは間違いないが、銀聯の底力は侮れない。

米フォーブズ誌が発表した「世界有力企業2000社」ランキングでは、第1位「中国工商銀行」、第2位「中国建設銀行」、第6位「中国農業銀行」、第8位「中国銀行」と、中国の銀行がトップテンに4行もランクインし、アップル(9位)やトヨタ自動車(10位)を抑えている。銀聯は、このような銀行集団をバックにしているため、体力の面では、いくらアリババとは言え、正面から消耗戦を仕掛けることは難しい。

皮肉なことに、一世を風靡しているQRコード決済を最初に研究開発したのは、銀聯だった。磁気ストライプ型カード、接触型ICカード(カードリーダーに差し込んで、テンキーで暗証番号を入力する方式)として始まった銀聯カードは、次世代の非接触型カードとしてNFCスマホ決済としてQRコードの研究開発を進めていたが、世界の趨勢がNFC非接触カードやNFCを利用したスマホ決済に向かうのを見て、NFCに一本化することを決断した。この判断は、決して間違っていたとは言えない。金融業界としては、当然の判断でもあった。

 

タオバオの詐欺防止のために導入されたアリペイ

アリペイは、元々、アリババが運営するECサイトタオバオ」内で使えるポイント通貨にすぎなかった。タオバオは、個人でも自由に出店できる個人間取引を重視したECサイトであったため、詐欺事件が多発していた。しかし、当時は、商品を注文したら、先に銀行振込やカード決済で支払いを済ませ、商品が到着するのを待つという方式なので、消費者は詐欺被害を防ぐ方法がなかった。

そこで、タオバオは独自のポイント通貨「アリペイ」を導入した。口座の管理は、アリババが行うので、凍結や没収ということが自由にできる。消費者は、アリペイのポイントを購入し、それで商品を購入する。もし、商品に問題がある場合は、顧客センターに通報をすれば、問題のある業者の口座をすぐに凍結してしまい、消費者にはアリペイで返金をする。そもそもは、タオバオの利用者を保護するために始めたのだ。

このアリペイは、アリババが運営、提携する旅行サイト、航空機チケット販売サイト、ゲームサイトなどに広がっていたが、ネットの外に出ることはなかった。

 

銀行が変わろうとしないのだったら、私が銀行を変える

アリババのジャック・マー会長は、当時から銀行に大きな不満を抱いていた。消費者が気軽に送金をできる仕組みになっていない。銀行振込は、届くのが1日ほどかかることもあった。銀聯カードは、商店側は手数料が5%(現在は競争により大幅に下がり0.38%が標準)も取られ、なおかつ支払いサイトは1ヶ月に1回(現在は最短3日)だった。1ヶ月分の収入を月締めで計算され、まとめて振り込まれる。これでは、毎日食材を現金仕入れしなければならない飲食店などでは、資金がショートしてしまい、経営が成り立たない。

そして、2008年、リーマンショックに端を発した金融危機が起こる。中国経済も大きな打撃を受けた。ジャック・マー会長はあらゆる場所で、銀行の旧態依然としたやり方が、ビジネスの発展の大きな足かせになっていると発言して、銀行のサービスを改善するように促したが、体力がある銀行は何も変えようとせず、金融危機が頭の上を通り過ぎるのをただじっと待つだけだった。

ジャック・マー会長は「銀行が自分で変わろうとしないのだったら、私が銀行を変える」と宣言して、アリペイを、外部の商店にも普及させる活動を始めた。

 

手数料、支払いサイト、初期投資で圧倒したアリペイ

圧倒的だった。手数料は0.1%から。支払いサイトは即時。導入時に必要なものは、アリペイのアカウントとスマートフォンだけ。審査も不要。一方で、銀聯を導入するには、専用のカードリーダーと認定済みのPOSレジが必要で、さらには店舗ネットワークのセキュリティ基準をパスしなければならない。個人商店には費用的にも人的資源的にも無理な話だ。

ある銀行関係者は、界面の取材に応えた。「銀行業界は、決済効率と安全性を天秤にかけると、安全性をなによりも優先せざるを得ません。銀聯は、監督官庁の厳しい監督のもと新しい技術を投入していきますが、スマホ決済は新しい手法であるため、監督官庁の体制が整うまでの空白期間がありました。この空白期間の間に、スマホ決済はシェアを大きく伸ばしてしまったのです」。

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銀聯NFCQRコードに対応し、スマホ決済に進出する。しかし、銀聯専用リーダーを販売しているあたり、先行きは不安だ。アリペイ、WeChatペイは、QRコードを紙に印刷するだけでも対応できるという手軽さが商店に歓迎されたのだ。

 

第二創業。勝負をかける銀聯総裁

銀聯の時文朝総裁は、銀聯内部でこう語ったと言われる。「資金力があり、高度なシステムがあり、リスク対応能力も高い金融機関が、このスマホ決済時代にリーダーの地位を占められないわけがない」。

そして、時文朝総裁は「第二創業」と称して、銀聯内部、さらには金融機関の大改革に挑む姿勢を明らかにした。

銀聯は、QRコードスマホ決済で、アリペイ、WeChatペイと真正面から対決する。しかし、界面を始めとする各メディアは「遅すぎた。もう93%のシェアを崩すことはできない」と論評している。

つい最近まで、来日する中国人旅行客の誰もが手にしていた銀聯カード。“爆買い”の象徴だった銀聯カード。あの輝きは過去のものになってしまうのだろうか。

 

中国ApplePayの5億円規模の大キャンペーンは完全不発に終わる

中国ApplePayが5億円を投じた夏の大キャンペーンは、期間中は盛況だったものの、終わってみたら、ApplePay利用者増加にほとんど寄与していない大失敗だったのではないかと、北京商報鳳凰科技など複数のメディアが報じた。

 

半額、ポイント50倍のアップルぶっ壊れキャンペーン

7月18日から24日までの1週間、アップルは中国でApplePayの大キャンペーンを実施した。北京、上海、広州、深圳の4都市で、ApplePay利用により購入金額の50%を割引(上限金額あり)するというもので、スターバックスセブンイレブンバーガーキングカルフール、GAP、ゴディバピザハットハーゲンダッツ、ワトソンズなどアジア圏では馴染みのある店舗チェーンが対象となった。さらに、紐付けた銀行カードの付与ポイントも最高50倍にするという大出血サービスだった。

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ネットワーカーの間では「アップルのぶっ壊れ企画」と呼ばれ、スマホ決済シェア6%以下という劣勢に甘んじているApplePayの利用率を大幅に増加させるのではないかと期待された。

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北京市内のワトソンズ。キャンペーンの告知がされ、初日、2日目は大盛況だったが、優待終了後は、キャンペーン開始以前の水準に戻ってしまったという。

 

初日、2日目は行列ができるほどの大盛況

確かに期間中、特に初日、2日目は各店舗とも行列ができるほどの賑わいだった。期間中に北京商報が、北京市内のワトソンズを取材すると、以前はApplePayを使う人は珍しかったのに、期間中前半はスマホ決済の6割から7割がApplePayになったという。市内のハーゲンダッツのある店舗では、先着2000名に半額の優待を提供したが、最終日を待たずに完了することになった。期間中はほぼ1/3がApplePay決済だったという。

スターバックスで1時間ほど観察をすると、31名がスマホ決済を利用したが、そのうちの6名がApplePayだった。店員によると、キャンペーン以前は、ApplePayを使う人はほとんどいなかったという。

あるセブンイレブンの店舗では、キャンペーン1日目、2日目までの統計を北京商報に提供した。アリペイ、WeChatペイ、ApplePayの比率は、52%、21%、27%となり、WeChatペイを超えるところまで増加した。

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▲キャンペーン初日の広州市のショッピングセンター。優待を求めて、長いiPhoneユーザーの行列ができた。しかし、優待が終了すると、こちらも通常通りの光景に戻ってしまった。

 

消費者に不評なApplePay

しかし、ApplePayに対して消極的な消費者も見受けられた。記者がスターバックスで目撃したのは、店員がiPhoneユーザーに対して「今、ApplePayで決済すれば半額になりますよ」と提案したところ、その客は「以前銀行カードをApplePayに登録をしたけど、ほとんど使わないので、カード情報を消去してしまった。もう一度、カードを登録し直すのは面倒なので、アリペイで支払います」と断った。

ApplePayに対応している商店は一部でしかないので、使う前にApplePayが使えるかどうかを確認しなければならない。一方、アリペイならすべての商店で利用できる。面倒になって、次第にApplePayを使わなくなってしまったという。

記者が、ある女性iPhoneユーザーになぜApplePayを使わないのかと取材をすると、その20代後半の女性は答えた。「多分、うまい設定の仕方があるんでしょうけど、決済時の指紋認証がうまくいかないことが何度かあって、それで嫌になりました。それに、iPhoneを使おうと指紋認証でロック解除すると、いちいちApplePayのアプリ(ウォレット)が起動するんです。アリペイの方がわかりやすくて使いやすいですね」。

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▲キャンペーン後半の北京市五道口。ハーゲンダッツスターバックスがあり、初日、2日目は長い行列ができた。しかし、先着順の優待が終わると、通常の平日通りの街の風景に戻ってしまった。

 

ApplePayを導入する商店側の負担も大きい

アリペイ、WeChatペイは、QRコード方式なので、路上の屋台まで対応をしているが、ApplePayが対応しているのは大規模チェーン店に限られることに、消費者は不満を感じている。商店がアリペイ、WeChatペイに対応するには、スマホからユーザー登録をして、あとは紙に自分のIDが記載されたQRコードを印刷するだけだ。客が自分のスマホで、このQRコードをスキャンすれば支払いができる。入金があったことは、店舗側のスマホが音声、ダイアログなどで知らせてくれる。

一方で、NFC(近距離無線通信)を利用するApplePayに対応するには、NFCリーダーとカード認証をするためにネットワークにも対応したPOSレジが必要となる。安いものでも1台、600元程度(約9800円)の価格がする。

小規模小売店の場合、その投資が壁になり、ApplePayに対応するための審査を受け、従業員にも教育をしなければならない。そういう負担ができるのは、ある程度の規模がある小売りチェーンだけに限られている。

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▲アリペイ、WeChatペイの強さの秘密は、自分のIDを紙に印刷しておくだけで対応できること。客が、このQRコードを読み込めば、支払いができる。そのため、大都市では、露天商もほぼ100%スマホ決済に対応している。

 

パスワードを店舗側ネットワークに渡さないアリペイ

さらに、ApplePayでは、顧客のカード情報が、店舗側のネットワークを経由して、認証サーバーに渡されるので、店舗ネットワークのセキュリティも考えておく必要がある。店舗ネットワークがハッキングされると、顧客情報が流出してしまう危険性があるからだ。具体的には、国際セキュリティ基準PCI DSSに認証されたPOSレジを使わなければならない。

アリペイ、WeChatペイは、店舗側が扱う顧客情報はID(口座番号)のみだ。パスワードなどの重要な情報は、顧客が自分のスマホの回線を使ってサーバーとやり取りするので、店舗ネットワークを経由することはない。特別なセキュリティ措置をする必要はない。

ApplePayの仕組みは、最先端のNFCを利用しているとはいえ、仕組みはプラスティックカード時代そのままで、顧客側には通信手段がないという前提に立って、カード認証を行う。そのため、顧客のパスワードなどを、いったん店舗側のネットワークに渡して、カード認証をしなければならない。

一方で、アリペイは、顧客側もスマホという通信手段を持っているという前提の仕組みになっている。店舗に渡すのは、流出しても問題のない口座IDのみ。重要なパスワードは、顧客が自分のスマホ回線を使って、サーバーとやり取りをする。

 

キャンペーンが終わったら、元の木阿弥

キャンペーン期間が終わってみて、ApplePayの利用率が少しでも上がっていれば、アップルの目論見は成功したことになる。しかし、北京商報の取材した範囲では、利用率が上がったと答えた店舗は皆無だった。ほぼ全店が、キャンペーン以前の水準に戻ってしまったと答えた。

京商報は、キャンペーンを実施した各小売企業の広報に、決済利用率のデータを開示してほしいと正式に取材申し込みをしたが、現在のところ、すべての企業が返答をしていない。

京商報など複数のメディアが、アップルのキャンペーンは、無残な失敗に終わったと見ている。期間中に、優待を得るためにApplePayを使っただけで、終わったらアリペイやWeChatペイに戻ってしまった。アップルは、中国人の決済習慣を変えることはできなかったというのが各メディアの結論だ。アップルは、中国でのApplePayの戦略を見直さざるを得なくなった。

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中国がバスの乗車賃を急いで電子化する本当の理由

雲南省麗江市は、街中を清らかな運河が流れる美しい街だ。少数民族が多く、トンパ文字の発祥地でもある。その小さな街のバスも、スマホ決済に対応を始めた。その理由は、偽札、偽硬貨の分別に大きな手間がかかっているからだと麗江網が報じた。

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▲世界で最も神秘的な街とも言われる麗江。人口110万人の都市に、毎年1億人を超える観光客が訪れる。世界で最も成功した観光都市のひとつだ。

 

偽札、偽硬貨に悩まされる麗江市バス

以前、中国のバスが、NFCカード決済からQRコード式のスマホ決済に転換しようとしていることをお伝えした。

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雲南省にある麗江市もその例外ではない。スマホ決済にするということは、全国的に普及しているアリペイ、WeChatペイでの支払いができるということで、麗江市民でなくても、そのままスマホ決済が可能になる。また、スマホ決済はほぼ実名制なので、乗客の年齢、性別、居住地などのデータを収集することができ、データ解析をすることでバスのダイヤや路線計画を効率的に改善していくことができる。

しかし、麗江網はもうひとつの理由を紹介している。それはバス乗車賃には、偽札や偽硬貨が使われることが多く、スマホ決済にすることにより、この問題を解決できるだからという。

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▲偽札にもほどがあるが、中国の子どもの玩具の紙幣、葬儀に使うお供え物の紙幣が妙にリアルであるため、使われてもうっかり見逃してしまうことがある。

 

中国のバスは、釣銭が出ないルール

偽札などが使用されたことは、バスの運転手が確認をしなければならないが、乗客が多い時は、すべてを確認することは難しい。また、発見をして注意をすると、言い返されてトラブルになることもある。

中国のバスは、規定により釣銭を用意していない。効率を考え、乗客の方が釣銭がでないように事前に乗車賃を用意しておくというルールになっている。しかし、現実にはそういかないこともあり、乗車してから小銭が足りないことに気がつくこともある。このような時に、財布の中に入っている外国の硬貨やゲーム用のコイン、玩具のコインなどで払ってしまう人もいるようだ。

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▲硬貨に紛れて発見された鍵の一部。

 

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▲正規の硬貨なのだが、穴が空いている。なんのために開けられた穴なのかは謎だ。

 

汚れた紙幣が多く、偽札が見分けられない

もうひとつは、中国の紙幣は概して汚れているということがある。最近の大都市では、ほぼ日本と変わらない綺麗な紙幣が使われているが、地方に行くとまだ汚れたり、破れたりしている紙幣が流通している。市民は財布を使う習慣がなく、ポケットなどに直接入れていることが多く、紙幣と硬貨の製造量が少ないために、ボロボロの紙幣が流通している状況があった。都会の若者が、現金を嫌って、短期間にスマホ決済に移行したのには、この紙幣が汚いという理由もあったと推測される。

紙幣が汚れているために、玩具の紙幣を使われても、運転手はなかなか気づきづらい。そんな理由で、偽札の類も使われてしまう。

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▲財布を持つ習慣がない中国では、紙幣を折りたたんで持ち歩く人が結構いる。折りたたんだ紙幣を開いてみると、偽札だったり、破れているお札だったりすることがある。

 

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▲乗車賃として回収された紙幣。一目見て、綺麗でないことがわかる。最近は随分と改善されたが、以前は汚れた紙幣がよく流通していた。

 

札被害は毎年7万元

市バスの運営局では、回収した乗車賃を集め、まず真札とそれ以外の分別作業をしなければならない。麗江市の場合、毎年、このような不正な紙幣、硬貨が7万元(約115万円)発見されるという。また、この分別作業にかかる人件費もバカにならない。小さな麗江市にとっては決して小さくない負担だ。

麗江市は、市の人口は110万人程度だが、国内外からの観光客は毎年1億人を超えるという、世界で最も成功した観光都市だ。交通カード方式では、観光客になかなか使ってもらえないため、現金による乗車賃が多いままだった。スマホ決済にすることによって、アリペイ、WeChatペイが使えるようになり、中国人観光客はスマホ決済でバスに乗れるようになり、現金比率が大きく下がることが期待される。

将来、外国人観光客もスマホ決済ができるようになれば、現金はほとんど使われなくなる。そうなれば偽札が使われることもなく、真札との分別作業も必要がなくなる。

小さな麗江市が、いち早くスマホ決済に対応したのは、こんな理由があったのだ。

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▲回収した現金から、不正な紙幣、効果を分別する作業。かなり汚れる作業であるため、白衣とマスクは必須だ。麗江市では毎年7万元の不正乗車賃が発見される。

偽造・変造・ねつ造大図鑑
 

 

中国が世界で最初に通貨発行を停止する可能性

中国で急激に進展するスマホ決済。大都市ではスマホ決済に対応していない店舗、サービスを探す方が難しくなっている。露天のスイカ売りですら、QRコードを印刷した紙をぶら下げ、スマホ決済に対応している。中国の市場調査会社iResearchが、中国が世界で最初に通貨発行を停止して、無現金国家に突入する可能性を論じ、国内外で議論が始まっているとパキスタンgeo.tvネットワークが報じた。

 

露天商ですらスマホ決済に対応している

中国スマホ決済の最大手であるアリペイを運営するアリババのジャック・マー会長は、「7年以内に中国を無現金社会にする」と公言している。中国の大都市を見れば、すでに無現金社会は実現されているかのように見える。北京、上海、重慶といった大都市では、現金のみに対応の店舗やサービスを探す方が難しい。紙幣や硬貨を見かけることはほとんどなくなり、スマートフォンQRコードで決済している姿ばかりだ。

それは、スイカや饅頭を売るような屋台でもそうだ。商品の横には、QRコードを印刷した紙が無造作に置かれていて、客は自分のスマホでこのQRコードをスキャンする。これだけで、アリペイ、WeChatペイなどのスマホ決済で支払いが終わる。

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▲道端の露店ですらスマホ決済に対応している。店舗口座のIDを表したQRコードを印刷するだけでいい。客がスマホでこのQRコードをスキャンし、金額を入力すれば支払いが終わる。200元以内の支払いは、パスコード入力も不要。

 

現金を持たない人が増え、小売業はスマホ決済対応へ

北京の天橋の高架下で花を売る63歳の宋さんも、知り合いに教えてもらってスマホ決済に対応した。「私は現金の方が好きですね。でも、今の人は現金を持ち歩かないんですよ。仕方なくスマホ決済にしました。歳をとって目が悪くなり、スマホの画面は見づらいのですが、仕方がありません」。

ダンスのプロになろうと専門学校に通っている25歳の女性、楊さんは言う。「現金は不便なんです。買い物をするときは、両手が買い物袋でふさがっています。その時に、財布を取り出して、お札と硬貨を取り出して、支払って、お釣りをもらって財布に入れるというのはとても面倒です。もうあの面倒な時代には戻れません」。

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スマホ決済は、2013年に前年比707.0%増と一気に立ち上がり、昨年も381.9%増と急増している。取引額は58.8兆元で、2017年には100兆元(1600兆円)に迫り、個人総支出額の1/2を超えると予測されている(iResearch社『中国第三方移動支付行業研究報告2017年』より作成)。

 

世界で最初に紙幣を発明して、世界で最初に紙幣発行を停止する

これは大都市だけの現象ではない。アリババが進める無現金都市キャンペーンに呼応して、杭州武漢、天津、福州、貴陽などの中規模都市も、続々と無現金都市宣言をしている。

調査会社iResearchの中国市場調査グループディレクターのベン・キャベンダー氏はgeo.tvの取材に応えた。「次の10年で、中国が無現金国家となり、通貨発行を停止する世界で最初の国になる可能性は十分にあると考えています。世界で最初に紙幣を発明した国が、世界で最初に紙幣発行を停止するかもしれません」。

 

北欧諸国は着々と通貨発行停止に向けて準備中

通貨発行停止というのは、現金に慣れ親しんだ私たちにとっては、想像もつかないことだが、すでにデンマークは通貨発行停止に向けて計画を進めている。一般の商店は、現金支払いを受け入れる義務があるが、レストラン、衣料小売店、ガソリンスタンドなどでこの義務を廃止する法律を今年から施行する。段階的にこの現金受け入れ義務廃止を拡大していき、2030年には、現金の受け入れ義務を完全に廃止する。

デンマークでは、国民の1/3が実質的な中央銀行であるダンスケ銀行のスマホ決済アプリを利用していて、7歳以上の国民には銀行のデビットカードが発行されている。すでに成人の97%が電子決済手段を持っている。

目的は、犯罪抑止だ。街中では強盗の発生件数を大きく減らし、犯罪集団の資金流通を補足する。所得の流れも捕捉でき、脱税防止や税徴収の不公平感も解消できる。ノルウェースウェーデンなどの北欧諸国も同様の政策を進めていて、北欧諸国は無現金国家への道を歩き始めている。キャベンダー氏の発言は、決して無謀な予測でなく、中国が北欧諸国に先んじて無現金国家になることは決してありえないことではない。

 

サイバー攻撃によるリスクは増大する

しかし、同時にキャベンダー氏は、課題も指摘している。ひとつは中国中央政府の積極的とは言えない態度だ。「中国政府は、無現金国家へ向けた流れを緩めるような政策を行ってはいません。しかし、加速する政策も積極的に打ち出しているわけではないのです」。無現金社会を歓迎する発言は政府関係者からたびたび聞かれるものの、その実、態度を決めかねているかのようにすら見える。

無現金国家となれば、国民のお金の流れがすべて把握できることになる。中国は、今年の6月末で、携帯電話の完全実名制を完了した。日本のマイナンバーに当たる身分証で国民全員を管理しているので、スマホ決済が主流になれば、脱税は不可能になり、テロリストの資金源も簡単に断つことができるようになる。

しかし、一方で、サイバー攻撃によるリスクは増大する。電子決済サーバーが攻撃されたり、あるいは携帯電話インフラの大規模障害が起きるだけで、市民生活は大混乱に陥る。中央政府は、無現金国家になることのメリットとデメリットをまだ見積もり切れていないのかもしれない。

 

農村格差、インタフェース格差の問題も

二つ目が農村との格差だ。農村では、スマホ決済はほとんど普及してなく、農村をどうやって無現金社会にしていくかという大きな課題がある。アリババは農村タオバオ、京東商城は京東便利店という無現金社会の拠点となる実体店舗を大量出店しているが、進捗ははかばかしくなく、農村の現金社会の壁は厚い。

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 三つ目が、認証技術の問題だ。現在はスマホ決済が主流だが、これを喜んで使うのは都市部の若者が中心で、未成年や老人、障害者などのユニバーサルデザインを考えると、やはり顔認証、虹彩認証などの生体認証が普及し、「手ぶらで決済ができる」状況が必要だとされる。しかし、生体認証は精度、認証の手間など実用面の点で、まだ決定打となる技術が登場していない。

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無現金国家では消費者ビジネスの革命が起きる

しかし、中国、北欧諸国を中心に、先進国が無現金国家への道を歩み始めていることだけは確かだ。無現金国家は、ただお札を刷らず、硬貨を製造しないということだけではない。あらゆるサービスが、電子化され、決済を中心軸として有機的に結びつくようになる。市民生活の利便性は大きく向上し、消費者ビジネスは大きく拡大する。そのインパクトは限りなく大きい。

世界を騙し続けた [詐欺]経済学原論 「通貨発行権」を牛耳る国際銀行家をこうして覆せ

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「ダンナ休憩カプセル」が上海のショッピングモールに出現

上海のショッピングモールにダンナ休憩カプセルが登場して話題を呼んでいる。高速鉄道グリーン車のシートを使い、Wi-Fiも完備し、ゲーム機も用意されている。スタートアップ「等吧」が試験運用したものだが、今後、広く展開できるのかどうか注目されていると鳳凰文創が伝えた。

 

買い物疲れのダンナを預かるカプセル

休日に家族で買い物に行くというのは、どこの国でも見られる光景だ。しかし、女性は4時間でも5時間でも買い物を楽しめるが、男性はだいたい30分ほどで主な店は回ってしまい時間を持て余すというのも万国共通の風景だ。

そこで、中国の百貨店では、広い休憩スペースを確保し、そこにユーモアで「ダンナ一時預かり所」という名前をつけていた。しかし、大型のショッピングモールには、この「ダンナ一時預かり所」は設置されない。大勢の人が座っている姿というのは、ショッピングモールにとってあまり都合がよくないことだからだ。人を座らせてしまったら、消費をしてくれない。消費の効率を上げるために、座る場所は最小限にし、どうしても座って休憩をしたい人は、カフェやレストランに誘導をする。そういう発想があるために、男性からはショッピングモールの評判はよくない。とにかく疲れるというのだ。

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▲ショッピングモールに設置された「ダンナ休憩カプセル」。奥さんや子どもが買い物を楽しんでいる間、ダンナはここでネットやゲームをして休んでいる。

 

ダンナはゲームをしながら、妻子を待つ

ここに目をつけたスタートアップ「等爾吧」が、「ダンナ休憩カプセル」の試験運用を始めた。透明カプセルの中には、高速鉄道グリーン車と同品質のシートを用意し、680種類のゲームが楽しめる。現在は試験運用であるため無料で利用できるが、正式運用後は、利用料やゲーム利用料などのマネタイズを考えていく予定だ。

実際に使った男性の評判は、両極端に分かれた。不評の第一位はエアコンが入っていないということだ。密閉されたカプセルの中では、温度と湿度がすぐに上がってしまい、不快に感じることもあったという。不評の第二位はカプセルが透明であることだ。まるで晒し者になっていて恥ずかしいという。

また、女性側からも不満が上がっている。買い物が終わって休憩カプセルのところにダンナを迎えてにいくと、ゲームに夢中になっていて、今度は女性が待たされることがあるというのだ。

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▲カプセルが透明であることに不満が多いが、完全に遮蔽してしまうと、中を汚されたり、場合によっては犯罪的な利用をされる可能性があることから、透明カプセルになっているという。

 

中国ではO2Oビジネスに投資が集中している

中国は、このようなカプセル型店舗の起業が相次いでいる。2人まで楽しめるミニカラオケ、恋人と2人でゆっくりとできるミニバー、ミニシアター、睡眠が取れる睡眠カプセルなどだ。

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この背景には、ネット完結型のサービスの収益が頭打ちになっていることがある。特に中国では、ネットによるコンテンツ配信ビジネスがほとんど成立しない。音楽や映画は、違法配信が多く、動画共有サイトにもすぐにアップロードされてしまうため、お金を払ってまで利用する人が極めて少ない。

そこで、中国で注目されているのがO2O(Online to Offline)ビジネスだ。日本のマーケティング用語のO2Oとは少し違っていて、ネットサービスとリアルサービスを組み合わせたビジネスに将来性があるという考え方だ。アプリで利用する自転車ライドシェアや無人スーパー、無人コンビニなどが代表格だ。このような中国版O2Oビジネスには投資が集まりやすい環境がある。

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この「ダンナ休憩カプセル」もそのような投資資金を受けたもののひとつだ。ダンナ休憩カプセルという面白コンセプトだけでは、拡大していくことは難しいだろうが、空港や駅などで、一般の待合室よりもリラックスできるスペースとして、あるいは街中にあって、ちょっとした仕事をこなせるミニオフィスとして活用することも考えているようで、コンセプトをピボットしていくことで、意外に成長する可能性はあるのかもしれない。

 

顔認識技術で、信号無視の歩行者を個人特定し、顔も晒します。中国各都市に設置された顔認識交通システムに大きな議論

中国各都市に設置され始めた交通監視システムが大きな議論になっている。歩行者信号を無視して横断した歩行者の写真を撮影し、顔認識により、名前、住所、勤務先を特定する。監視が厳しい中国社会であっても、さすがにプライバシーの侵害ではないかと大きな議論を呼んでいると捜狐が報じた。

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▲写真はダミー表示だが、運用開始後は、信号無視をした歩行者、自転車運転者の実際の顔写真が、このモニターにでかでかと表示される。

 

顔認識技術で、信号無視歩行者を個人特定

この監視システムは、深圳、済南、福州、重慶などの都市の主だった交差点に設置された。横断歩道が赤になったのに、停止線より先で動く物体を感知すると、4枚の写真と15秒の動画を自動的に撮影する。この写真と動画を自動的に画像解析し、人間の顔部分を抽出。さらに、公安が保有する身分証データベースに照合して、違反をした歩行者の名前、住所、勤務先を特定する。

ただし、現在は勤務先と地区コミュニティーに通知をするだけで、すぐに違反切符や罰金を科すことはしない。済南市では、5月から運用を始め、わずか3ヶ月で、6200件の歩行者、自転車の信号無視を捕捉した。一方で、多くの市民から、やりすぎだ、プライバシーの侵害だという声が上がっている。

なぜなら、街頭の大型モニターには、違反者の顔写真が次々と公開されるからだ。氏名や住所などの個人情報は表示されないものの、信号無視程度のことでひどすぎるという声が上がっている。さらに、顔写真、氏名などの個人情報は、一体どこに保存されて、どのように扱われるのかという疑問の声も上がっている。

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▲赤信号時に横断する歩行者を検知すると、4枚の写真と15秒の動画が撮影され、顔認識が行われ、公安部の身分証データベースとの照合が行われ、個人が特定される。

 

議論を呼ぶ顔写真のプライバシー

済南市公安局交通警察支隊宣伝所の劉暁静(りゅう・ぎょうせい)氏は、捜狐の取材に応えた。「このシステムは違反を摘発するためのものではありません。横断歩道の信号無視は、歩行者にとっては、命を落としかねない大きな危険があります。職場や地域を通じて、注意を促してもらい、安全な行動に結びつけるためのものです。顔写真は、モニターで公開しますが、氏名、住所などの個人情報は表示せず、プライバシーにも一定の配慮をしています」。劉暁静氏は、システム導入後、信号無視が明らかに減少していることを何度も強調した。

中国人民大学法学院の王宗玉(おう・そうぎょく)副教授は、捜狐の取材に応えた。「個人情報は、法律により厳格に保護されなければなりません。ただし、重要犯罪の嫌疑がある場合は、一定の範囲で個人情報を利用することが許されています。しかし、信号無視という行政処分案件が重要犯罪にあたるかどうかという点については明文規定が存在しないのです」。

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▲交差点に設置された顔認識システム。交通マナー向上の切り札となるか、個人情報を侵す監視社会の道具となるか、議論を呼んでいる。

 

効果は確かに上がっているとは言うものの…

このシステムが設置された交差点では、確かに信号無視が減少していて、効果は上がっている。しかし、信号無視をした人は、街頭モニターに顔が晒され、職場や地域コミュニティーから叱責を受けることになる。やりすぎなのか、交通マナーを向上させる優れたアイディアなのか、議論が続いている。

最新情報2014-2015 なんでこれが交通違反なの!?